第197話 問答

「……な、何を言っているんですか?」


 マギナが言っていることが理解できず、俺は思わず彼女に聞き返してしまった。しかし、彼女の方がむしろ困ったような表情をする。


「言ったとおりさ。殺させてほしいんだよ、君の腕輪に宿っている、勇者アキヤを」


「……ですから、意味がわからないんです。アキヤを殺すってことは……俺を殺すってことでしょう?」


「そうじゃない。別に、僕もルミスも、君に恨みはない。だが、君の腕輪に宿っている勇者アキヤ……僕たちはソイツを殺すために、こうして教団まで建てたんだ」


「アキヤを……殺すために?」


 意味がわからず、俺は今一度彼女に聞き返す。教団を作ったのがアキヤを殺すため? 一体どういうことだ?


「あぁ。もしかして、僕たちが世界を支配するために教団で信者を増やしているとでも思ったのかい?」


「……えぇ。というか、アナタ達の背後には……魔王がいると思っていました」


「あぁ、いるよ。僕たちと魔王は共犯者さ」


 なんてことはないという感じでそう言うマギナ。ますます俺は混乱する。しかし、ここまで聞いてしまっては後戻りも何もない。俺は最後まで聞くことにした。


「……アナタが言う魔王というのは、かつてアナタのパーティにいた『装備屋』という男ではありませんか?」


「ん? あぁ、そうか。君はアキヤの記憶も共有しているから、そのことも知っているのか。そうだよ。彼はかつて『装備屋』だった。今は『魔王』だけどね」


 ……あまりにも簡単に真実をバラしていくマギナ。なんだか、いよいよ彼女がやろうとしていることが理解できなくなってきた。


「……もう一つ聞いていいですか。以前、女神ルミスと出会ったという人物と会いました。彼は自分が異世界から転生してきたと言っていて、特殊な能力を持っていました。彼に関して知っていることは?」


「フフッ。君、私に聞きたいことがたくさんあったんだね。あぁ、知っているよ。彼を作ったのも僕とルミスだからね」


「……作った?」


「あぁ。彼、最後は化け物になっただろう?」


 まるでそうなることをわかっていたかのように……というより、明らかに確信していた表情だった。


「……えぇ。それも……アナタが?」


「そう。僕はね……人間を作ることができるんだ」


「人間を……作る?」


「正確には人の形を、ね。しかも、その人形には特殊な能力を組みこむことができるんだ。だけど……魂までは作ることはできない。魂を操ることが出来るのは女神ルミスだけさ」


「……つまり、アナタが身体を作り、ルミスが魂をその身体に入れた、と? そんなこと、できるわけが――」


「できるんだよ。なにせ、僕たちは先代の魔王を倒したパーティだからね」


 笑顔でそういうマギナには明らかに威圧感があった。俺は思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。


「……じゃあ、なぜそんなことをしたのです? アナタは世界を支配するつもりはないんですよね?」


「あぁ、支配するつもりはないさ。壊すつもりだからね」


 マギナはそう言って無表情になった。明らかに先程までと雰囲気が違う。


「……勇者アキヤのような外道を生み出したこんな世界は僕とルミスが破壊する。そのために異常な能力を持った疑似勇者を生み出したんだ。そして、破壊した後に、僕たちの信者だけが存在する優しい世界を作り直すのさ」


 そう言うと、マギナは今一度笑顔になって俺の方に一歩近寄ってくる。


「……そんな優しい世界に、勇者アキヤのような危険な力は必要ない。だからこそ、君に頼んでいるんだ。わかってくれるよね? アスト君」


 マギナは笑顔ではあったが……明らかにその表情の奥には拒否を許さない凄みが溢れていたのであった。

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