第195話 邂逅

 こうして俺たちは信徒からアクセサリーを入手することができた。後はこのままルミスが入ると思われる白い塔に向かうだけである。


 俺たちはなるべくひと目につかないようにしながら塔へと向かっていった。そして、塔に着くと……街の入り口と同じように、二人の門番が立っていた。


「じゃあ、後はアクセサリーを見せるだけですね」


 俺たちはうなずき合うと、そのまま門番の方へと向かっていく。


「おい! 待て!」


 と、門番達は俺たちのことを認めると、高圧的な態度で近づいてきた。


「お前たち……ここがどういう場所かわかっているのか?」


 門番にそう言われてしまうと……俺たちは少し戸惑ってしまった。


「女神ルミス様の聖地、でしょ?」


 と、俺たちが戸惑っている間に、メルがそう言う。


「そのとおりだ。わかっているのなら、この塔に入るための資格が必要なことも承知のはずだ」


「もちろん。ほら、これでしょ」


 メルは堂々とした振る舞いで門番にアクセサリーを見せる。門番はアクセサリーをジッと見つめていたが、なぜか次の瞬間には笑顔になった。


「……失礼。ここは私達にとっても大事な場所、警備は厳重にしなければいけないからな」


「ええ、わかっているわ。お疲れ様」


 メルはそう言ってそのまま進んでいってしまう。


「他の者も同様に資格を持っているか?」


「え……えぇ、持っています」


 メルの行動を皮切りに、俺たちは門番にアクセサリーを見せていった。門番は特に問題なしと判断したようで、俺たちはそのまま塔の中に入ることが出来た。


「……メル。ありがとうございました」


 塔の中に入った直後、俺はメルにそう言った。しかし、メルの表情は浮かないものだった。


「……別に。私はただ……許せないだけだから」


「あの……先程もそう言っていましたが……」


 俺がそう言うとメルは小さくため息を付いてから俺の方に顔を向ける。


「……ヒーラーになる者は皆、無償で、慈悲の心を持って、傷ついた人達を癒やすことを誓いとするの。でも……ルミスって人はそんな基本的なことも守っていない」


「……えぇ。それどころか、ルミスは街の人達から、財産を奪っているようです」


「それが許せないって言っているの。しかも、自分を神と名乗っている……アスト、わかってるわよね?」


「え……な、なんですか?」


「……仮にアンタの転生前の仲間だとしても、ルミスに会ったら、容赦なく叩きのめすのよ。私も全力でアンタのこと、支援するから」


 メルは真剣な表情でそう言った。俺はその顔を見て思わず微笑んでしまう。


「な、何よ……変なこと言った?」


「いえ……でも、心配はいりません。ルミスに会っても、俺は遠慮なんかしませんよ。俺……戦士アストの仲間は、メル達だけですから」


 俺がそう言うとメルは少し頬を紅くして顔を反らしてしまった。なんか変なことを言っただろうか?


「お話中悪いけど……そろそろ広い場所に出るよ」


 と、背後からのミラの言葉で俺も我に返る。それまでの長い廊下から一転して、目の前には広大な空間が広がる。


「これは……!」


 俺達の目の前に広がったのは……巨大な礼拝堂のようだった。


 人はいないようだったが、いくつもの椅子が並べられ、その先に祭壇がある。そして、その祭壇の上部には……大きな女神の像が立っている。


「あれが……ルミス」


 その女神の像の顔は、俺が持っているアキヤの記憶の中のルミスの顔と全く同一であった。


「ああ、そうだ。あれが女神ルミスのご尊顔だよ」


 と、いきなり人がいないはずの礼拝堂で声が聞こえてきた。俺たちは思わず身構えてしまう。


「フフッ。そんなに構えなくて大丈夫だよ。僕はいきなり襲いかかったりしないからさ」


 その声……それも俺の持っているアキヤの記憶の中で聞いた覚えのある声だった。俺は声のした方に振り返る。


「やぁ、久しぶりだね、アキヤ……いや、今はアスト、だったかな?」


 不敵な笑みを浮かべてこちらを見る白装束の女性、服装と同様に白い髪に対照的な黒曜石のような瞳……ちょうど魔法使いのミラの服装が真っ白になったような格好だった。


 そして、アキヤの記憶の中で会ったことのある人物とまさしく同一であった。


「……マギナ」


 女神ルミスよりも先に、俺たちはアキヤのかつての仲間、魔法使いのマギナと出会ってしまったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る