第189話 証を手に入れるために

「ここからなら、目的地まででも歩いていくことができますね」


 翌朝、俺達は改めて目的地を目指すために活動を開始した。


「だけど……一つ気になるんだけど」


 と、ミラがいきなりそんなことを言い出した。


「ミラ、何が気になるんです?」


 俺がそう言うとミラは腕を組んで難しい表情をする。


「その、ルミス教団のある街ってのは、問題なく入ることができるのかな?」


 そう言われて……俺も不安になってきた。


 言われてみれば確かに自由に入れる街なのだろうか。今手元にある情報を総合すればその街は言ってしまえば教団のお膝元、信者である人間しか入れないんのではないか?


「……そうですね。言われてみれば、確かに……」


「とりあえず、見かけだけでも入信すると言えば良いのではないか?」


 リアが特に問題はないだろうという顔でそう言う。しかし、そんなことで果たして街に入れてもらえるのだろうか。


「……あの、一ついいですか?」


 と、サキが少し遠慮がちにそう言う。どうやら、信者達の街に俺達を連れて行ってしまったことを少し後悔しているようだった。


「サキ、どうしました?」


「……昨日、私達を信者にしようとしてきた人たちなんですけど……皆さん、あの人達の首元、見ました?」


「首元、ですか?」


 正直、全く見ていなかった。互いに顔を見合わせるがどうやらサキ以外は見ていなかったようである。


「で、それが何?」


 メルが少し厳しい口調で言う。サキは未だに遠慮しながら話を続ける。


「首元に……皆アクセサリーみたいなのをしていたんです。最初はあの街で流行ってるのかな、くらいに思ってたんですけど……あれ、信者であることの証、みたいなものなんじゃないでしょうか?」


 ……なるほど。もし、サキの言ったことが本当なら、その証とやらがあれば、教団の信者として認識されるのではないだろうか?


「……サキ、それは確かですか?」


「え、えぇ……宿屋の主人も、カップルも同じものを付けていたので確かかと。サキュバスはその……身につけているものでその男性がどんな立場の人間か見極めるのが得意ですから……」


 苦笑いしながらそういうサキ。しかし、証が存在するとしても、それをどうやって手に入れれば良いのだろうか?


「あ、あの!」


 と、俺がそんなことを考えていると、サキがいきなり手を挙げる。


「え……な、なんでしょうか?」


「えっと……言い出したのは私ですし……一度あの街に戻って、証を手に入れてきます!」


「えぇ!? そんな……危険過ぎますよ!」


「大丈夫です! 仮に彼らが強い信仰を持っていたとしても! 相手が男性なら私の『心酔』の能力が打ち勝つはずです!」


 サキは真剣な顔でそういう。おそらく、割と俺達に対して引け目を感じているのだろう。しかし、だからといって一人で行かせるわけには――


「やらせてあげてくれない?」


 と、俺が困っているとそう言ったのは、メルだった。


「え……ですが、メル……」


「この子の『心酔』の能力がどんなに強力であるかは……私達なら身を持って経験しているでしょ?」


 そう言ってメルはニヤリと微笑む。確かにその通りではある。


「それに、大丈夫よ。私も付いていくから」


「え? メルもですか!?」


「えぇ。まさか聖職者でもあるヒーラーが、冗談で信仰を変えようなんて思わないでしょ? 私がいれば、この子が信者になろうとしているって話が本当っぽくなるわけ」


 確かにそうかもしれないが……というか、すでにメルはやる気の表情だった。


「……といういことで、失敗は許さないわよ、サキ」


「は、はい!」


 メルの半ば強引な提案で、こうして、今一度サキとメルを、先程の信者たちの街へと送り届けることになってしまったのであった。

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