第190話 再び街へ

 ということで、サキの提案により、メルとサキが今一度街に戻ることになった。


 ミラの転移魔法で二人を今一度街の近くへと転送する。二人を転送したのはいいのだが……


「……やっぱり、心配ですよね」


 俺が言い出すと、皆同様の気持ちだったのか、大きく頷いてくれた。


「まぁ、とんでもないミスはしないと思うけど……心配ではあるね」


 ミラがそう言うとリアとラティアも頷く。サキ曰く、しばらくしたら転移魔法で迎えにきてほしいと言っていたが、むしろ、ここで待っている方が不安である。


「ミラ、その……私達も街の近くに転移しないか?」


 そういったのはリアだった。ミラは少し驚いた表情をする。


「えっと……リアも心配ってことはわかるんだけど、ああ言っていたわけだし、私達が手伝うわけには……」


「手伝うわけではない。その……物陰から見守っているのはどうだ?」


 リアの提案に俺とミラ、そして、ラティアも顔を見合わせる。


「……そうだね。別に付いてくるな、とは言われていないしね」


 ミラも乗り気のようだった。俺も実際、何かあったらすぐにでもメルとサキを助けられる距離に居たほうが安全だと思う。


 結局、残った俺達も転移魔法で先程の街に近くまで転移し、その後、ミラの「ステルス」の魔法で気配を消した後、街に潜入することにした。


「……で、二人はどこに言ったんですかね?」


 ステルス状態で小声で俺はミラに話しかける。


「おそらく……信者の人が集まっていそうな場所……やっぱり酒場じゃないかな?」


 ミラの其の言葉をきっかけとして、俺達は酒場に潜入する。酒場は盛況で、一見、特におかしな点はないように見えたが、やはり皆、首元にアクセサリーらしきものを付けている。


「……おい、あれではないか?」


 と、ラティアが俺にそう言って、指をさす。その先には……確かにメルとサキがいた。


 二人……といっても、主にメルの方が、大柄な男性に話しかけている。その男性も首にはアクセサリーを付けていた。


 そして、しばらく話をしたかと思うと、男性と二人は連れ立って外に出ていった。俺達も同様にその後をつける。


 男性と二人は路地裏に入っていく。と、路地裏では主にサキが男性に話しかけていた。しばらくすると、男性はうっとりとした表情をして首のアクセサリーを外し、サキに渡すと、その場を去っていった。


 サキはメルに向かって得意そうな顔をする。しかし、メルが注意の言葉と共にサキの頭を叩くと、二人は今一度酒場の中に戻っていった。


「さすがサキュバス……心酔のスキルは信仰心を上回るみたいですね。この調子で人数分の証を集められるでしょうか?」


 思わず感心して俺はそう言ってしまった。


「……確かに、心酔に負けてしまう程度の信仰心の持ち主なら、簡単にアクセサリーを渡してくれるだろうね」


 そう言うミラの表情は険しいものだった。


「……と言うと……どういうことですか?」


「もし……何者の誘惑にも負けない強い信仰心を持った信者を、二人が引き当ててしまったら……どうなると思う?」


 ミラは真剣な顔で俺に訊ねてくる。その言葉に俺は返事をすることができなかった。


 普通なら、そんな強靭な信仰心を持った信者を引き当てることはないだろう。おそらく、メル一人なら大丈夫だ。


 だが……パーティを崩壊させようとして、運悪く俺達のパーティを引き当ててしまったサキなら……俺は俄に不安になってきてしまったのだった。

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