第184話 アキヤとアスト
「……えっと、これで、俺が知っているアキヤ……つまり、俺の転生前の記憶は、全部です」
長い話が終わって、俺は大きく息を吐き出した。皆は俺のことを真剣な目で見つめている。
「……えっと、一つ言えることは……アスト君は、転生前も……パーティを追放された、ってことでいいのかな?」
そう言ったのは……ミラだった。俺はそんなことを言われると思わず一瞬呆然としてしまったが、すぐに苦笑いしながら肯定する。
「え、えぇ……恥ずかしながら……」
「……別にアストが追放されたわけじゃないでしょ。話を聞いていると、アストの転生前っていうのは……今のアストとは似ても似つかない人間だったみたいだし」
メルが少しムキになってそう言う。そう言われてしまうと、確かにその通りだ。
こうして話していても、俺とアキヤはまるで違う人間だ。しかし、俺の転生前はアキヤで、『救世の勇者』なのである。それは、俺が保持しているアキヤの記憶が逃れられない事実だと言わんばかりの証拠である。
「ただ……今の話だと、そのルミスとマギナというのが……これから向かおうとしている場所にいるということになるのか?」
リアが確認するかのようにそう言う。おそらく、リアの言う通りだ。自身を異世界からの転生者と主張していたカイが言ったいた事、そして、サキの話も総合すると、おそらく今もルミスとマギナは一緒に行動して……この世界に対して何か良からぬことをしようとしている……俺にはそうとしか思えないのだ。
「そうですね……ルミスは確定ですが……マギナの行方も確認したいですね」
「装備屋、という男はどうなのだ?」
と、そこで話に入ってきたのはラティアだった。氷のような冷静な視線で俺のことを見ている。
「……彼についてはわかりません。アキヤも彼のことはよく理解していなかったようですし」
「その男が、ルミスとマギナと共に行動している可能性はないのか?」
「……それもわかりません。まずは、ルミスとマギナに会ってみないと……」
俺はそう言ってから、今一度ミラのことを見る。
「ミラ……これで納得してもらえましたか?」
俺がそう言うとミラは少し考え込んだ後で、小さく俺に向かって微笑む。
「……そうだね。ただ、ウチはもし、そのルミスとマギナって人に会ったら、一つ言ってやりたいことがあるね」
「え? 言ってやりたいこと?」
「うん。君達の仲間のアキヤっていう勇者と、ウチのアスト君は別人だって、はっきりさせてやりたい」
ミラは真剣な目だった。おそらく、本気でそう言ってやろうと思っているのだろう。
「ミラ……」
「……さて! 皆、手をつないで。とりあえず、地図の一番近くの街まで転移するよ!」
ミラの合図で俺達は手をつなぐ。そして、ほどなくして、ミラの転移魔法が作動し、俺達は眩い光に包まれていったのであった。
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