第182話 剣の勇者VS雷の戦士

 そして、さらに時間が経過する。


 勇者アキヤとその一行は「敵」と対峙していた。


 その「敵」とは、かつての仲間……戦士ライアンだった。


 ルミス、マギナ、そして、新たに仲間になった装備屋が見守る中、二人は対峙していた。


「……お前、自分が何言っているのかわかってんのか?」


 アキヤは青筋を立てながらライアンに対して問いかける。しかし、ライアンは不敵を笑みを浮かべたままで、アキヤを見ている。


「あぁ、わかっているぜ。俺はお前を倒す。そして、お前は俺に惨めに敗北する」


「……俺は言ったよな? 俺が負けるなんて戯言を言う奴が許せない、って……殺されなかっただけでもありがたいって思わなかったのか?」


「あぁ、お前に情けをかけられるくらいなら、お前に殺された方がマシだね」


 ライアンはわざと挑発するようにアキヤにそう言う。一方、沸点の低いアキヤは挑発されるままに怒りのボルテージが上がっていく。


「……いいぜ。殺してやる。お前が俺に勝てないということを確信するくらい、完膚なきまでに殺してやるよ」


 そう言って、アキヤは剣を抜く。それと同時に、ライアンも剣を抜くと同時に、金色の髪が黄金色に輝き始める。


「あぁ……お前の全力、一度見てみたかったんだ。見せてみろよ、俺がお前に絶対に勝てないと思うくらいの全力を」


 ライアンがそう言うと同時の出来事だった。瞬時に、アキヤの姿が消える。


 しかし、次の瞬間には、ライアンはアキヤの一撃を手にした剣で受け止めていた。


「ほぉ……一撃で決まると思ったんだがな」


「……ハッ。この程度か? これがお前の全力なのか?」


 ライアンは馬鹿にした調子でそうアキヤに言う。しかし、これがライアンの命運を決定づけてしまった。


 急にアキヤはライアンと距離をとると、いきなり剣を下ろす。


 そして、いきなりその剣を地面に突き刺した。


 不味い、とライアンも理解はできていた。今からアキヤが繰り出そうとしている技は、共に旅をしている最中に、何度も魔物相手にアキヤが繰り出すのを見ていたからだ。


 しかし、ライアンは既に自分の命運が決まったことを理解していた。アキヤが繰り出そうとしている技は自分の速さでも、避けきれないということを。


 そして、もう一つの理由は――


「……『剣刺ソード・スティング』」


 アキヤが邪悪な笑みを浮かべると、同時に、ライアンの足元から無数の剣が、それこそ剣山のようにいきなりライアンに向かって生えてくる。


 無論、それらの刃はライアンの身体を貫き、ライアンは瀕死のダメージを受けてしまった。


「がふっ……」


 串刺し……というよりも、剣刺しになってしまったライアンは吐血しながらも、アキヤのことを見る。


「……どうした? まさか、俺がこの技を人間相手に繰り出すわけがない……そう思っていたのか?」


 ニヤニヤしながらそう言うアキヤ。ライアンはそれを見て、自分がやはり甘かったことを理解する。


「……アキヤ、一つだけ聞かせてくれ」


 剣に身体を貫かれながらも、ライアンはアキヤに訊ねる。


「あ? なんだよ、死に損ない」


「お前は……なんで、俺を仲間に誘ったんだ?」


 ライアンがそう言うとアキヤは目を丸くして意外そうな顔をする。それから再び邪悪な顔になってライアンに顔を近づける。


「そんなの……数合わせに決まってるだろ? 格好つかないだろ? パーティってのは四人くらいいないと」


 アキヤのその言葉を聞いてライアンはなぜかフッと小さく微笑んだ。それと同時に一瞬、ライアンの眼帯が強烈な光を放つ。


「なっ……なんだ!?」


 一瞬、目くらましかと思ったアキヤだったが、次の瞬間、光が収まった後には……眼の前からライアンが消えていた。


「アキヤ」


 と、背後から声が聞こえてアキヤは振り返る。マギナだった。


「あぁ……終わったな。くだらねぇ戦いだった」


「ライアンはどうしたんだい? 止めは刺さなかったのかな?」


「さぁな。いきなりアイツの眼帯が光って……いなくなってた。まぁ、逃げたとしてもアイツは瀕死だ。どこかで野垂れ死ぬだろうよ」


「そうか……それにしても、腕輪というハンデを抱えているのに、圧倒的だったね」


「あ? ライアンみたいな雑魚、腕輪があってもハンデなんかにならねぇっての」


 そう言ってからアキヤは、たった今の戦いには既に興味を失ってしまったようだった。


「さて……良い準備運動になったぜ。そろそろ、本番……魔王を軽く倒しに行こうぜ」


 余裕の表情でそういうアキヤ。マギナも笑顔で頷く。


 しかし、そのマギナの笑顔は、既に仲間に対して向けられる優しさの笑顔ではなかった。


 自分が今からしようとしていることにまるで勘付いていない、哀れな男に対する侮蔑の微笑みであることを、アキヤは想像もしていなかったのであった。

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