第181話 腕輪との出会い

 ライアンをクビにしてからしばらくの時間が経った。


 アキヤ達は魔王の城に近づいていた。マギナの言う通り、既に魔王城の周辺の高レベルの魔物でも勇者アキヤには敵わない状態となっていた。


「まったく……退屈だぜ」


 酒場でぶっきらぼうに杯を机に叩きつけながら、不機嫌そうにアキヤはそう言った。


「まぁまぁ、アキヤ。君の気持ちはわかるよ。でも、きっと魔王の城に入ったならば、君の不機嫌さを解消してくれるはずさ」


 曖昧な笑みを浮かべながら、マギナはそう言う。ルミスは隣でニコニコしながらアキヤを見ているだけである。


「……城の周辺の魔物でさえ一撃なんだぞ? 魔王の城の中だって程度が知れているさ」


「なるほど……それは退屈でしょうね」


 と、そこへいきなり割り込んでくる声があった。


「あぁん? なんだお前」


 ガラ悪く睨みつけてくるアキヤの視線も物ともせず、その声の主はアキヤの隣に座った。


 目は細く、色は白い……常に笑みを浮かべてその人物はアキヤを見ている。


「失礼。今の話を聞いていて思わず話しかけてしまいました。アナタは……とても退屈しているのですね?」


「あ? まぁ、それはそうだけどよ……」


「そうですか……実は私、こう見えて装備屋なんですよ」


「装備屋だぁ?」


 明らかに怪訝そうな顔をするアキヤを他所に、その男は話を進めていく。


「えぇ、珍しい物品もいくつか揃えておりますよ」


 あまりにも胡散臭そうな喋り方に、さすがにアキヤも目の前の男に嫌悪感を覚えてしまった。


「……いらねぇよ。俺は既に最高レア度の武具を揃えている。今更お前から買うものなんてねぇよ」


 そう言ってアキヤが話しを切り上げて立ち上がろうとした時だった。


 いきなり、男はアキヤの右腕を掴むと、その腕にいきなり何かを嵌め込んだ。


「てめぇ! 何しやがる!?」


 アキヤが剣を抜き、男の喉元に突き立てる。


「すいません! しかし、どうしてもその商品をお試しになってほしくかったんです」


 男は剣を突き立てられたというのにまるで怯えていないようで、笑顔のままでそう返した。


「いいじゃないか、アキヤ。殺さないであげよう」


 と、マギナの言葉に、怒り心頭ながらもアキヤは腕輪を確認する。


「……あ? なんだよ、これ!? 外れねぇぞ!」


「えぇ、そういう装備なので。その腕輪はアナタの魔力を吸い続ける腕輪なのです」


「はぁ? なんだそりゃ!? ただのクソ装備じゃねぇか!」


「ですから、それがいいのです。アナタはもうこの周辺のモンスターにさえ、苦戦しないのでしょう? でしたら、多少はハンデが必要なのではないですか?」


「ハンデ……だと?」


「えぇ、その腕輪は最強のアナタにとっての枷のようなもの……むしろ、アナタにしか使いこなせない装備なのです」


 装備屋は笑顔のままでアキヤにそう言う。アキヤは相変わらず不機嫌そうな顔であったが、その怒りは既に大分収まっていた。


 何より、初めて会った男が自分のことを「最強」だと呼んだこと……それはアキヤにとってこの上なく、心を満たす言葉だった。


「……チッ。くだらねぇ、外に出てくる」


 そう言ってアキヤは酒場の出口へと向かっていく。


「そうか、気をつけるんだよ。僕達はもう少しこの装備屋さんと話しているから」


 マギナの声に、アキヤは今一度振り返る。


「……おい、お前、名前は?」


 と、男性は笑顔をアキヤに返す。


「名乗るほどの者ではありません。装備屋、とでもお呼び下さい」


「……そうかよ。ちょうど荷物運びが必要だと思っていたところだ。引き受けるよな?」


 装備屋は笑顔のまま大きく頷いた。そして、今度こそ、アキヤは酒場を出ていった。


 しかし、アキヤもよく考えるべきだったのだ。


 なぜ、自分と初めて会った男が、自分が満足しそうな言葉を把握していたのか、を。


 自分の右腕に嵌められた腕輪が本当に「魔力を吸い続けるだけの腕輪」なのかどうか、を。

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