第180話 暴虐勇者と仲間たち
時代は少し前。
世界は魔王によって支配され、魔物の数も数倍程度多かった時代。
「これで止めだぁぁぁ!」
ほとばしる光、大地が割れんばかりの振動……まるで巨大な獣が暴れているかのような光景だった。
一人の勇者が振り下ろした剣は巨大な魔物を切り裂いた。彼の何倍も巨大な魔物をまるで、ナイフで肉を切り落とすかのように簡単に真っ二つにした……なんとも異様な光景だった。
「さすがだねぇ、アキヤ君」
巨大な魔物が地響きを立てて倒れた後で、勇者に近づいてきたのは、魔法使いらしき女性であった。
まるで老女のような白い髪に対照的な黒曜石のような瞳、そして、瞳と同じくらい黒い装備……少し異様な風体の女性だった。
「……さすが? 当然だろ? こんな雑魚、何度も倒してきただろ?」
勇者……アキヤはまるで嬉しくないという調子でそう言う。しかし、彼としては褒められた悪い気分はしていないようだった。
「もしかして~、ルミス達っていらない子だったりしないかなぁ~?」
魔法使いの隣でそう言ったのは……白い装備のヒーラーらしき女性だった。白い肌に白い装備で、全体的に実在感がなく、こちらはどうにも掴み所がない程にポワポワした感じの女性だった。
「……いらねぇだろ。どう考えても」
そして、少し離れた場所で忌々しげにそう言うのは、一人の男性だった。まるで雷のような金色の髪……左目に眼帯をした男性は面白く無いという顔で勇者を見ている。
「いや、お前たちは必要だぜ? 俺が如何に最強であるかを証明するためにな?」
嫌味ったらしくそういう男性……そのセリフ回しはどうにも勇者とは思えない程に下卑たものだった。
「しかし……最近は高レベルの魔物も物足りなくなってきたね……僕達は出番さえなくなってしまった。そこで……どうだろう、アキヤ、僕から一つ提案があるのだが」
と、魔法使い風の彼女がそう言う。アキヤもその提案に興味を示したようだった。
「なんだ、言ってみろ」
「そろそろ……魔王を倒してみるっていうのはどうだろう?」
魔法使いらしき彼女は冗談とは思えない口調で、ニッコリと微笑んでそう言った。
しばらくの間沈黙があった。しかし、その沈黙はすぐに破られる。
「……おい、本気で言ってんのかよ」
そういったのは眼帯の男性だった。
「あぁ、僕は本気さ」
「あのなぁ……いくらアキヤが強いからって、魔王となると話は別だ。今まで何人のパーティが魔王に挑んで――」
「おい」
と、眼帯の男性が言い終わる前に、勇者は彼に声をかえると同時に……その頬を思いっきり殴りつける。
「ぐはっ……」
そのままの勢いで地面に倒れる男性。
「お前……この俺が魔王に負けるって言いたいのか!? あぁん!?」
そう言って、勇者は男性の顔面を足で踏みつける。
「ち、ちが……そんなことは……言ってねぇよ……」
「言ってんだろうが! いいか!? 俺はお前と違って最強なんだ! お情けでパーティに入れてやってるっていうのに調子乗ってんじゃねぇぞ!」
そう言って、勇者は男性の腹に思いっきり蹴りを入れる。男性は苦しそうに身体をねじったが、右目で勇者のことを睨んでいた。
「ライアン。てめぇはもうクビだ。俺のパーティには、俺が誰かに負けるかもしれないなんて思う馬鹿は必要ねぇからな」
そう言って、地面に倒れたままの男性にもう一度蹴りを入れると、勇者は魔法使いとヒーラーのもとに戻っていく。
「さて……マギナ。今の提案、中々気に入ったぞ」
「フフッ。君ならそう言うと思ったよ」
「魔王か……ま、俺なら楽勝だろうな」
「わぁ~、さすが、アキヤ君! ルミス、アキヤ君がカッコよく魔王を倒す所みたいなぁ~!」
そう言って、三人はボロ雑巾のようになった男性をおいて歩いていってしまう。
「……もう、限界だな」
掠れるような声でそういった男性……ライアンの呟きは既に彼らには聞こえなかったのであった。
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