第173話 皆のもとへ

「アスト!」


 と、俺達を包んでいた光が薄れていき……段々と周囲の光景がわかってくると同時に、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


 メルが走ってこちらに駆け寄ってきた。その目にはうっすらと涙が溜まっている。


「なんで一人で突っ込んでいくのよ! 馬鹿なんじゃないの!?」


「あ、あはは……すいません、メル」


 怒られながらも俺はなんとなく嬉しかった。こうやって、俺は、俺という存在を保ったままで、またメルの前に帰ってくることができたのだから。


 と、俺は今一度先程までいた城の方を見てみる。見ると、城は段々と崩れ落ちている。先程まで暴れまわっていた触手の怪物も、まるで枯れてしまった植物のように動かなくなり、身体が自壊しているようだった。


「さすがだな、アスト」


「あぁ、ラティア……リアは大丈夫ですか?」


「あぁ、問題ない。先程少しだけ目を覚ました時はリアに戻っていた」


 と、ラティアは少し悲しそうに目を伏せる。


「……妹が迷惑をかけるな」


「え……何を言っているんですか。リアは悪くないんです。それに迷惑なんて思っていません」


 俺がそう言うとメルとミラも同様に頷く。ラティアは少し嬉しそうに微笑んだ。


「えっと……とりあえず、全部解決したってことなんですかね?」


 と、サキとキリが少し申し訳無さそうに俺達の方にやってきた。


「えぇ。問題は解決しました。サキもキリもありがとうございます」


「あ、あはは……まぁ、とりあえず、氷漬けの人達は解凍してから、回復しておきましたよ。しばらくすれば目を覚ますんじゃないですかね」


 そう言ってからサキはキリの方を見る。キリは居心地悪そうに俺のことを見る。


「……別に私は何もしていません。まぁ、姉様も無事に帰ってきたようですし……」


「あれ? キリちゃん、もしかして心配してくれてたの? 嬉しいなぁ~」


 ミラがそう言うとキリがまた少し面倒くさそうな顔で視線を反らした。


「……おい」


 と、背後から誰かが呼びかけてくる。振り返るとそこには……


「アッシュ……」


 背中にホリアを背負ったアッシュが立っていた。


「……お前……あの怪物を倒したのか?」


「え? いや、俺だけで倒したわけではありませんが……そんなことより、ホリアは大丈夫ですか?」


 俺がそう言うとアッシュはホリアの方を見る。確かにホリアは眠っているだけのようだった。


「……アスト。一度は俺のパーティにいたんだからわかっていると思うが、俺は借りを作るのが大嫌いだ」


「え、えぇ……知っていますが」


「……俺ははっきりいえばお前のことが嫌いだ。だが、借りを作ったままにしておくのはもっと嫌いだ」


 そう言ってアッシュは俺の方に近づいてくると、鋭い視線で俺のことを睨む。


「もし、お前が困っている時は俺はどんな時、どんな場所でも助けに行く。わかったな?」


「あ、あはは……えぇ。ありがとうございます」


 と、アッシュはそう言ってそのまま俺から離れようとしたが、すぐになぜか俺の耳元に口元を近づける。


「……ライカが変なことをお前に伝えるように言ってたぞ」


「え? ライカが? なんて言ってたんです……?」


 と、アッシュは俺から離れてから真剣な表情で先を続ける。


「『お前が何者であるのか、思い出せ』だと……俺には意味がわからないがな」


 それだけ言ってアッシュはホリアを背負ったままで歩いていってしまった。


 自分が何者であるのか、思い出せ……ライカが一体何を言おうとしているのか、そして、これから何が起きようとしているのか、俺には理解できた。


 そして、これから、大きな出来事が起きようとしていることも……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る