第168話 発生源

「ら、ライカ!? お、お前今までどこに行ってやがった!?」


 俺よりも先にそう反応したのは、アッシュだった。


「あぁ、アッシュか。久しぶりだな」


「ひ、久しぶりって……お前なぁ!」


 アッシュは明らかに怒っているが、ライカはまるで意に介していないようである。


「……アナタは一体何をしにきたんです?」


 俺がそう言うとライカは苦笑いしながら、既に先程よりも巨大化している触手の塊を指差す。


「何って……お前がきっと、アイツのことで困っているんじゃねぇかなぁって思ってな」


「……アナタには関係のないことです」


「それがそうでもないんだよなぁ。むしろ、アレは、元々は俺達のせいなんだぜ? アスト」


「……俺達?」


 俺が理解できないでいると、なぜかライアは眼帯を指差す。


「忘れたとは言わせねぇ。お前が一体何者であったのか、何をしたのか……な?」


 ……なるほど。ライカが言っているのが一体どういうことか、俺にも理解できてきた。


 しかし、ライカの言っていることを俺は理解できるが、信じられない。そして、俺達という言葉が一体何を指すのかも。


「おい、アスト。あの者は一体何を言っているのだ?」


 ラティアが苛立たしげにそう言ってくる。いや……今問題にしているのはそのことではない。もし、レイリアの言う通り、あの触手の塊が魔導生物だった場合、このまま放置しておくことはできない。


「……ライカ。アナタがここに来たのは……あの魔導生物の倒し方を知っているからではないのですか?」


 俺がそう言うとライカは少し目を丸くしてから、ニヤリと微笑む。


「なるほど……まぁ、思い出話は落ち着いてから、だな。その通り。俺はアイツの倒し方を知っている。その通りだ」


「俺達は魔導生物を倒す必要があります。その倒し方を……教えてくれませんか?」


 俺がそう言うとライカはさらに嬉しそうに嗤う。それから、わざとらしくため息を付き、俺の方を見る。


「嬉しいぜ。まさか、お前からそう言ってもらえるなんて。わかった。協力してやるよ」


 そして、ライカは今一度魔導生物の方を指差す。


「アイツはどんどんデカくなっているが、あくまでその中心は一つだ」


「中心……それって……」


「発生源だ。あの触手の……苗床みたいなもんだな」


 苗床……レイリアの言っていたことを俺は思わず思い出す。つまり、カイがあの魔導生物の発生源となっており、その発生源を立てば魔導生物の活動も終わるということであろう。


「お、おい! ちょっと待て! つまり、あのカイって野郎を倒すってことか?」


 アッシュの質問にライカは冷たい視線を返す。


「倒すんじゃねぇ。殺すんだ。おそらく、奴は既に人間じゃねぇ。本当の意味で魔導生物のコアになっちまっている。だから、完璧に破壊しないといけねぇ……まぁ、最も、元から人間だったかどうも怪しいがな」


 そう言ってからライカは今一度、俺の方を見る。


「で……お前なら当然出来るよな? アスト」


 その答えをライカはわかっているかのように、不敵な笑みを浮かべている。ただ、俺の答えも当然決まっていた。


「……あぁ。これから……あの魔導生物の発生源を、破壊する」


 覚悟は必要であったが、俺ははっきりとそう言った。そして、俺のその言葉に、ライカ、アッシュ、ラティアは小さく頷いてくれたのであった。

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