第169話 氷雷

「……改めて見ると……デカいな」


 城の近くまでやってくると、アッシュがそう呟いた。


 俺達はライカの提案を受け入れ、魔導生物の発生源を叩くために、直接乗り込むことになった。メル、サキ、そして、キリには氷漬けになった人々、リア、ミラの手当を頼み、必ず帰ってくることを約束して。


 そして、乗り込むのは、俺、ラティア、ライカ、アッシュとなったのである。


 しかし、アッシュの言う通り、デカい……というよりも、どんどん大きさを増して言っているように見える。


「なんだ、アッシュ。怖いならお前は帰ってもいいんだぞ?」


 ライカにそう馬鹿にされると、アッシュは真っ赤になって怒り出す。


「は、はぁ!? ふざけんな! アイツはホリアをあんな目に合わせやがったんだぞ! 一発ぶん殴ってやんなきゃ気が収まらねぇ!」


「はっはっは! そうだな! お前のそういうところは、俺は好きだぜ」


 そう言うとライカはなぜかバンバンとアッシュの背中を叩く。


「な、なんだよ、お前は……」


「……だからよぉ、お前はここで死ぬな。ホリアのためにもな」


「え? お前何言って――」


 一瞬、ビリっという音が響いた。それとともに、アッシュはその場に倒れてしまった。


「……いいんですか。アッシュ、絶対に怒りますよ」


 俺がそう言ってもライカはニッカリと笑うだけである。


「アッシュは……確かに嫌な奴だったが、憎めない奴だ。一度はパーティの仲間だったからな。こんなところで死ぬことはないだろ?」


 ライカの言うことは間違っていなかった。実際、ライカがやらなければ俺がどうにかしよう思っていたわけだし。


「……で、三人でどうするのだ? それとも、まさか、我も気絶させる気か?」


 ラティアが皮肉まじりでそう言う。ライカはわざとらしく首を横にふる。


「アンタのことはよく知らないが、一人でもアイツとやり合うこともできる……そうだろ?」


「ほぉ……お前、よくわかっているではないか」


 ラティアが満足そうにそう言ったあとで、ライカは俺の方に再度視線を向ける。


「アスト、俺に作戦の提案がある」


「作戦……どんなものですか?」


 俺が聞き返すとライカは得意そうな顔をする。


「シンプルな作戦だ。俺とラティアでまずは全力でアイツに大ダメージを与える……そのダメージでアイツが弱っている間に、アストが一人で城の中に乗り込んでコアを破壊する……どうだ? シンプルでいい作戦だろ?」


 ライカは当然できるだろ? という顔で俺にそう言ってくる。いや、というよりも、ライカは俺がそれをできるとわかって言っているのである。


「……さすがにそれはアストが危険すぎる。できるわけが――」


「ラティア。大丈夫です」


 ラティアの言葉を遮り。俺は先を続ける。


「アスト……本当に、大丈夫なのか?」


「えぇ……可能性は低いですが、もし発生源にまだ意識があるのならば、確認したいこともありますから」


 そう言って俺は剣を抜く。それと共に右腕の腕輪が光りだす。


「……では、ラティア、ライカ。最初の攻撃、お願いできますか」


 ラティアは少し不安そうだったが、ライカは嬉しそうな顔でやる気満々だった。それを見て、ラティアも仕方ないというように前に進む。


「いいか、アスト。アイツが弱っているのは少しの時間だけだ。その間に城の中の発生源までたどり着け」


「……えぇ、わかっています」


 俺が返事をすると、ライカの周りからバチバチと音が聞こえ始める。それと共にライカの金髪が黄金色に輝き出す。


「……アスト、必ず帰って……リアに顔を見せてやってくれ」


 ラティアの言葉に俺は小さく頷く。それと同時に周囲の気温がどんどん下がり、ラテイアの周りが氷始める。


「ラティア! 行くぞ!」


「……あぁ。いつでも良い」


 そして、ライカの発電と、ラティアの周りの氷が最大限まで高まった、その時だった。


「『サンダーブレード』!」


「『フローズンストーム』!」


 二人の声が響くとともに、魔導生物の上空から、激しい雷が直撃する。それと同時に、無数の氷の刃が、触手の塊に突き刺さる。


『グォォォォォ……』


 触手の塊は苦しげな鳴き声を上げ……それから、活動が緩慢になる。


「行け! アスト!」


 そう言われると同時に俺は……触手の城に向かって走り出したのであった。

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