第165話 人間でも、魔物でもないもの
「え……あ、あれ? なんで血が出ないんだ……?」
カイも言われて気付いたようで、腕の切り口を見る。
と、何故かレイリアがこちらに近寄ってくる。ラティアも俺も戸惑ってしまう。
「あの者、人間ではないな」
「え……じゃあ、インキュバスなんですか?」
思わず俺も話しかけてくるレイリアに思わず返答してしまう。
「妾も最初はそう思ったんだが……わけがわからんな。インキュバスでもない」
「え……そ、そうなんですか?」
サキがインキュバスの匂いがしないと言っていたのはそのためか。もちろん、レイリアが嘘を言っている可能性もあるが……いや、ここで嘘を付く必要はないし、何より、斬った腕から地が出ないなんて人間でも魔物でもあり得ない話だ。
「あぁ。しかし、お主らも相変わらずよくわからない奴を相手にしとるな」
と、レイリアがニヤリと微笑む。なんだか今回はレイリアの様子が違うようであるが……
「お、おい! アスト、見ろ!」
今度はラティアに声で俺は今一度カイの方を見る。
「う、うわぁぁぁ!? な、なんだこれ!?」
見ると、カイの切断された腕から……何か触手のようなものが生えてきているのである。
「ふむ……わけがわからん。あれは一体なんなのか……」
考え込むレイリア。いや、今はそんな落ち着いている場合ではない。と、カイの腕から生えてきた触手は一瞬にしてカイの身体に絡みついていく。
「や、やめろ! た、助けてくれぇぇぇ!」
みるみるうちにカイは触手に飲み込まれてしまった。しかし、触手はどんどんと膨張を続けていく。
「ふむ。苗床になったか」
レイリアが落ち着いてそう言う。
「苗床って……な、何が起きているんですか!?」
「……とにかく、この城から出たほうが良いぞ。妾は先に出ているからな」
そう言ってレイリアは一瞬にして消えてしまった。どうやら本当に逃げたらしい。
だが、確かに、カイの身体を包んだ触手は今にも天井まで届きそうである。
しかし、この部屋には今現在もラティアの魔法で氷漬け状態の冒険者の人たちがいる……彼女たちを置いていくわけには……
「あれ~。なんか、とんでもないことになってるねぇ~」
と、背後から間の抜けた声が聞こえてくる。振り返るとそこには……
「メル! ミラ!」
いつのまにかミラとメルがそこにいた。
「アンタの見立て通り、地下にもたくさんの女の人達が閉じ込められてたわ。その人達を解放してきてからこっちに来たわけ。で……あれ、何?」
メルが嫌そうな顔で既に肉塊となったカイのことを見る。
「説明はあとです。今すぐここにいる人たちを全員避難させないと……」
「避難って……全員氷漬けじゃない。どうするのよ?」
メルの言う通りだ。カイはどんどん大きくなっている。このままでは……
「……アスト君。ウチ、今回の戦い、このあとはまるで役に立たないから」
「え? ミラ? 何を――」
俺がその先を言い終わる前に、部屋全体が光り輝きはめる。
それは……ミラの転移魔法が使用される前兆と同じであった。
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