第164話 パンドラの箱

「ハッハッハ! 取ったぞ! また僕の手駒が増えた! これで形成逆転だ!」


 カイは高笑いをしながら俺とサキのことを見る。


「な、何が起きた!? なぜ奴の氷が溶けている!?」


 ラティアとキリが慌ててこちらへやってくる。


「……あれを」


「あれは……探していたヒーラーか? なぜここに……?」


「カイが魔法か何かで存在を隠していたようですが……一体どうやったのかは……」


「……待て、アイツは……リアを心酔させたのか?」


 ラティアの白い肌がいつもより白くなったかのように見えた。それくらいラティアは不味いといった表情で俺を見る。


「え、えぇ……おそらく……」


「不味い! アスト! リアを止めるぞ!」


 と、ラティアは躊躇うこと無く、リアに向かっていく。


「え!? ら、ラティア!」


 俺が止める間もなく、ラティアはリアに突っ込んでいく。しかし、リアは沈黙したままで動かない。


「ククッ……! 仲間同士で殺し合うがいいさ! さぁ、僕のために戦え!」


 そう言ってカイはリアに指示を出す。それと同時に、リアは剣を抜く。


「……あれ……あの剣って……」


 俺もその時理解した。ラティアがなぜあそこまで焦っていたのかを……!


 その剣は……かつてレイリアを封印した吸魂の剣であった。リアはあの剣を持ってはいるが、普段のクエストでは使わない。それが何を意味しているのかは俺達でも理解できた。


 つまり――


「カイ! リアから離れなさい!」


「あぁ? お前、何言って――」


 俺が言ったその次の瞬間だった。リアは……吸魂の剣で瞬時に、カイの右腕を切り払った。


「……え?」


「お主、誰に向かって口を聞いておるのだ? 妾は真なる吸血姫だぞ?」


 リアには出来ない邪悪な笑み、そして、滴る血のような紅い瞳……


「……また会ったなぁ。アスト?」


「……レイリア」


 リアが今まで吸魂の剣を使わなかった理由……自分を見失う可能性があったからだ。


 それが、心酔によって、自分が失われてしまった……結果として、レイリアは目覚めさせてしまったのだ。


「う……腕がぁぁぁぁ! 僕の腕がぁぁぁ!」


 レイリアを目覚めさせてしまったカイは……パンドラの箱を開けてしまったが如く、その代償を支払わされることになってしまったのだ。


 そして、俺達も……そのパンドラの箱の中身と、対峙させられることになってしまったわけである。


「なんだ、コイツは? アスト、お前の仲間か?」


 レイリアはつまらなそうな顔でカイを眺めている。カイは涙目になりながら切断された腕を抑えている。


「ふ、ふざけるな! 俺は勇者なんだぞ! 異世界転生して最強になったんだ!」


「ほぉ……異世界、とな……道理でお主、奇妙な身体をしているわけだ」


 レイリアがニヤリと微笑む。と、なぜかレイリアは俺の方に顔を向けてくる。


「アスト、お主、こんなものは見たことあるか?」


「え? 見たことあるって……」


 そう言って、レイリアは切断されたはずのカイの腕を指差す。


「珍しいな。斬っても血が全く出ない身体というのは」


 俺も一瞬意味がわからなかった。しかし、レイリアの指し示す通りである。


 カイの腕は……切断されたというのに血が一滴も出ていなかったのである。

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