第153話 女の消えた街

「……着いたのか?」


 転移魔法が完了したらしく、周囲の風景がはっきりしてきた。ラティアが周囲を見回しながらそう言った。


「えぇ。着いたみたいです。あれ……少し離れた場所に街が見えますが、おそらくあれが最後にアッシュが立ち寄った街でしょう」


 俺がそう言って指し示す方に確かに街がある。


「よし。では行くか」


 ラティアはこうやって冒険するのがほぼほぼ初めてなので楽しいのか、どことなく浮かれているようにも見える。最も、表情はいつも通りのクールなものなのだが。


「まぁ、街にはいないでしょうね」


 と、街に俺達が向かおうとしている時、サキがそんなことを言う。


「いない……では、どこに?」


 俺が聞くとサキは少し難しい顔をする。


「いえ……普通、インキュバスは人気のない場所を好むので街にはいないと言ったのですが……何せ、今回のインキュバス、話だけを聞くとどうにも特殊な個体のようですので……」


「……つまり、街に行ったらいきなり出会う可能性もあるってことですか?


 キリが少し不安そうに訊ねると、サキはその通りだというふうに頷く。


「えぇ。まぁ、そうなってしまうと、ちょっと不味いんですが……」


「問題ない。我がいれば一瞬でソイツを氷漬けにしてやろう」


 ラティアは余裕の表情でそう言う。まぁ、ラティアが言うと本当にそうなってしまいそうで少し不安なのだが……


 それから俺達は街の方に向かって歩いていく。段々と街が近づいて行くにつれて少し様子がおかしいことに気付いた。


「……なんか、静かすぎませんか?」


 と、最初に口に出したのはキリだった。俺も同じことを思った。


 街が近づいているというのにあまりにも静か過ぎるのだ。もう少し喧騒が聞こえてきてもいいはずなのだが……


 そして、街の入り口にたどり着く。


「……あれ。ここって……ロエメスの街?」


「ロエメス? 来たことがあるのですか、サキ?」


 サキが口にした街の名前……俺は聞いたことがなかった。


「あー……来たことはないんですが……名前は知っているんです。というか、サキュバスの間では結構有名な街なんですよ」


「有名? どうしてです?」


「それは……あ、あはは……」


 苦笑いしながらそういうサキ。どういう意味で有名なのかはわからないが……歩いているうちにおかしなことに気づく。


「若い女が、いないな」


 ラティアが言うように、街には若い女性がまるでいないのだ。皆どこか悲しそうな顔で力なく街を歩いていく。


「……とりあえず、情報収集じゃないですか。宿屋か、酒場に行きますか?」


 キリの提案に従うことにした。リア達とは後で宿屋で合流するという話だったのでとりあえず酒場に行くことにした。酒場も同様に、皆、悲しい雰囲気で酒を飲んでいる。


「少し、話を聞いてみましょうか」


 そして、俺は酒場の店主に話を聞いてみることにした。店主も同様にどこか悲しそうである。


「あぁ……注文かい?」


「少し聞きたいんですが……この街、おかしなことが起きていませんか?」


 俺がそう言うと店主は悲しそうに視線を伏せる。


「……見ての通りさ。若い女がいないだろう? ウチにもちょっと前まで看板娘が元気に働いていたんだが……」


「えっと……それはどうして? 女性たちはどこへ行ってしまったんです?」


「……わからない。ただ、いつからこうなったかは覚えている……あれは、少し前に、一人の勇者がこの街にやってきてからのことだった」


「勇者……パーティでやってきたんですか?」


「いや……一人だった。ソイツはなぜかやたらモテていてね……街中の女がソイツに見惚れていたよ。そんなにカッコいい男ってわけでもなかったんだが……」


「それで……その勇者が女性を連れて行ったんですか?」


「いや、ソイツは特に何もせずにそのまま街を出ていったよ。だけど、アイツがいなくなってからだ。この街から若い女が一人もいなくなったんだよ……すまないね。わけのわからない話をしてしまって」


 店主はそう言って悲しそうな表情で小さくため息を付いた。俺達はお礼を言って酒場を後にした。

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