第152話 代替メンバー

「それで……我が呼ばれたというわけか」


 いるだけで周囲の冒険者がその白銀の髪の女性を見ている。しかし……明らかに周囲の気温が格段に下がっている。


 久しぶりに見たラティアは、相変わらず氷のように美しい存在だった。


「すいません、姉上……」


「良い。困っている者を助けるのはアーカルド家の家訓……というより、我がリアに教えたのだったな」


 ラティアはそう言うと俺の方を見る。


「それで……我は何をすればいい?」


「あー……さっき説明したように、これから俺達が対峙する相手はインキュバスである可能性が高いんです。だから、心酔の能力の影響を受けないで戦えるラティアに頼んだわけで……」


「なるほど。つまり、そのインキュバスを氷漬けにすればよいのだな。簡単だな」


 不敵に微笑むラティア。まぁ、戦った俺からすると、おそらくラティアはここにいる中でも転生前の力を含めて、俺と同等に強いから心配する必要はないだろう。


「で、その二人も付いてくるのか?」


 ラティアが視線を向けるのは……同じようにミラに呼び出されたミラと、なぜか巻き込まれることになったサキだった。


「……姉様。言っておきますが、私は心酔の影響を受ける可能性がありますからね」


 キリは明らかに機嫌が悪そうだった。まぁ、「子供っぽい人」と言われて呼び出されてしまえば、相当機嫌が悪いのは当たり前だろう。


「え~? じゃあ、キリちゃんって、大人なの?」


 ミラがニヤニヤしながらそう訊ねると、キリは悔しそうにしながらミラを睨む。


「あー……まぁ、とにかく、インキュバスに心酔してしまった人を助けるのが第一ですから。まぁ、適当にやりましょう」


 悪気があるのかないのか、そんなゆるい感じでそう言うサキ。


 ……まさかとは思ったが、どうやら俺はこの三人と共に、ホリアをそのインキュバスから奪還しなければいけないようである。


 とりあえず、俺とラティア、キリ、そして、サキの三人がパーティとして先にインキュバスがいるであろう場所に乗り込み、可能ならばホリアを奪還するということになった。


 万が一のために、リア、メル、ミラ、そしてアッシュは、あとから敵地に乗り込み、ミラの「ステルス」で隠れながら、俺達のことを見守る、ということになった。


「……とりあえず、この勇者さんがヒーラーさんと最後に立ち寄った街に転移してみようか」


 ミラの言うように、まずは情報収集、アッシュとホリアが最後に立ち寄った街に行くことになった。


「最初にアスト君と氷の姉上、キリちゃんとサキュバスさんを転移させるから。あとで私達も行くからね」


 そして、ミラの転移魔法に備えて俺達は一箇所に固まる。


「あ……アスト!」


 と、ミラが転移魔法をかけようという時にアッシュが俺に呼びかける。


「アッシュ、どうしました?」


「その……すまねぇ……」


 かなり悔しそうに、恥ずかしそうにしていたが、アッシュはギリギリ聞き取れる声で俺にそう言った。


 俺を散々ゴミのように扱っていたアッシュがそんな事を言ってくるとは思わなかった。というよりも……アッシュはここまで精神的に追い詰められているということなのだろう。


「……いいんですよ。俺は一度はアッシュのパーティに所属していました。つまり、俺達は仲間だったんです。俺は仲間が困っている時には助ける主義ですから」


 そう言うとアッシュは驚いた顔をして俺を見る。その目には少し涙が溜まっていた。


「じゃあ、とりあえず、転移魔法行くよ~」


 ミラがそう言うと共に、辺りが光に包まれてそのまま真っ白になったのだった。

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