第147話 会いたい人
「……あれ。寝ちゃったのか……」
目を覚ますと、いつのまにか俺はベッドで横になっているようだった。昨日はサキの正体を見破ってそれで……あぁ、それでそのままワインを飲んだんだった。
さすがに少し飲みすぎたか……そう思いながらふと、俺は横を見る。
「……え?」
見ると……俺のすぐとなりにメルが眠っていた。気持ちよさそうな顔で眠っている。
……いやいやいや。大丈夫。俺は、何もしていない。そもそも、服は着たままだし……さすがに酒に酔ったからってそんな……
「……何もしてないわよ。アンタ。最初に寝ちゃっただけだし」
と、俺がそう思っていると……メルが目を覚ましたようだった。
「メル……じゃあ、なんで……」
「アンタが起きた時慌てたら面白いなぁ、って思ったから。それだけよ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべるメル。といっても、よく考えたら同じベッドで目を覚ますって時点で相当不味いような……
「……えっと、ミラは?」
「途中で帰ったわ。後はお二人さんで楽しんでね、って言って」
そう言ってメルは起き上がる。
「アンタ、何か食べるでしょ? 朝食くらい作ってあげるから」
「え……あ、あぁ。すいません……」
それから俺はメルに朝食を作ってもらった。誰かに料理を作ってもらうなんてことかなり久しぶりだったので、なんだか不思議な気分だった。
「で、今日はどうするの?」
メルに聞かれて俺も何も考えていなかったことを思い出す。
「あー……とりあえず、集会所に行きましょうか。皆、いるかもしれませんし」
「そう。じゃあ、行きましょう」
身だしなみを整え、俺達は二人でメルの家を出る……って、なんだかこれ、傍から見ると、完全に同棲している二人みたいでめちゃくちゃ恥ずかしい……
「……アイツ、どうしたのかしらね」
と、集会所に向かう途中でメルがボソッと呟く。
「え? アイツって……サキのことですか?」
メルは何も言わずに小さく頷く。
「なんというか……本当なら許せないはずなのに……なんというか……どこか憎めないヤツだったわよね」
「そうですね……また会いたいですか?」
「会いたくはないわよ。別に……それに、昨日も言ったけど、あっちが私達に遭いたくないでしょ」
確かにメルの言う通りである。おそらく、サキとしてもこんな経験をすればもう二度と冒険者のパーティを崩壊させるような真似はしないだろう。
「それにしても……メルがこのパーティのことを大事にしていてくれて、嬉しかったですよ」
「え? あぁ……まぁ、それなりに長い期間いることだし……嫌でも愛着が湧くっていうのかしらね……って、なんでニヤニヤしてんのよ」
「いえいえ。俺も同じだからですよ。このパーティは……俺の居場所ですから」
「……だから、アンタは恥ずかしいセリフを堂々というのやめなさいって」
そんなことを話しながら俺達はいつのまにか集会所にたどり着いてしまった。
「おぉ! アスト! メル!」
と、集会所に着くなり話しかけてきたのは、リアだった。なぜか少し嬉しそうである。
「リア……えっと、大丈夫ですか?」
「ん? 何がだ?」
「いや、その……何か身体におかしな部分とか……ありませんか?」
「まったくないぞ。いつも通りだ……って、メル!? どうしたんだ!?」
話している最中にいきなりメルは、リアに抱きついた。リアは余りの出来事に恥ずかしそうにしながら驚いている。
「……良かった。リア……元に戻って」
「え? 元に戻るって……お、おい。アスト……メルはどうしたんだ?」
困り顔でそういうリア。俺は思わず苦笑いしながらリアに返事をする。
「メルはリアのことを大事に思っているということですよ」
俺がそう言うと、メルは恥ずかしそうにしながらリアから離れる。相変わらず状況が理解できていないリアは困惑しながらも落ち着きを取り戻した。
「あー……すまん。少し取り乱してしまった。そもそも、私はメルに話があったんだ」
「え? 私に?」
「あぁ。今日集会所に来たらメルに会いたいって人が私のところに来てな……あぁ、あの人だ」
と、そう言ってリアが指差す人物を見て、俺とメルは思わず目を丸くする。
メルと同じヒーラーの服装、肩までの短い髪……柔らかな笑顔を湛えて、その人物はこちらへやってくる。
「この人が、メルに会いたいと言っていた人だ」
リアがそう言うと、紹介された人物は深く頭を下げる。
「はじめまして! 私、ヒーラー見習いのサキと言います!」
そう言ってサキは、元気に自己紹介したのであった。
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