第146話 似た者同士
「え……な、なんで……?」
サキは身体がもとに戻ったというのに、困惑しているようだった。そんなサキに向けて、メルが思いっきり顔を近づける。
「……アンタ、さっきの話は本当なのよね?」
「え? さ、さっきの話って?」
「本当は、誰かと一緒にいたかった、って話? 嘘なわけ? だったら、もう一度死んでもらうけど?」
メルは割とまじで本気に聞こえるようにそう言う。と、サキはそれを聞いて首を思いっきり横にふる。
「ほ、ホントです! 嘘じゃないです!」
サキは半分涙目になりながらメルにそう訴える。メルは目を細めて疑っている感じでサキを見ていたが……不意に小さくため息を付いてサキを見る。
「……でしょうね。さっきの話はホントに聞こえたし。ほら、さっさと行きなさいよ」
「え……行きなさいって……私は……もう奴隷じゃないんですか?」
「奴隷? フッ……あんなの冗談に決まってんでしょ? 趣味じゃないのよ、そういうの。わかったら、さっさと消えなさいよ」
メルがそう言うとサキはいまいち要領を得ないといった表情で俺とミラを見る。
「ヒーラーさんの気が変わらないうちに、どこかに言っちゃったほうがいいんじゃないの~?」
ミラがそう言うとサキはゆっくりと立ち上がる。未だに自分が許されたという実感がないようで、フラフラとしながらそのまま歩いていく。
「……ちょっと」
と、サキが立ち去ろうとする時に、メルが声をかける。一瞬、ビクッと反応したサキは恐る恐るこちらを振り返る。
「え……な、なんですか……?」
「アンタの治癒魔術……気持ちよくなるっていうのは、やっぱりアンタがサキュバスだから?」」
「え? あ……えぇ。おそらく……それで心酔の度合いが高まるらしいので……」
「へぇ。じゃあ、アンタは心酔の度合いを高めずには治癒魔術は使えないの?」
「いえ……そんなことはありませんが……」
すると、メルは何故かサキの方に向かっていく。サキは少し怯えていたが、メルはサキの前に立つと……ニッコリと笑顔になる。
「じゃあ、これからは普通に治癒魔術を使うようにしなさい。私ほどではないけれど、アンタは相当レベルの高い治癒魔術を使っているんだから」
メルがそう言うとサキはしばらく呆然とメルのことを見ていた。そして、しばらくすると、何も言わず、そのまま駆け出してメルの家から飛び出していってしまったのだった。
「いやぁ~。ヒーラーさんは最後まで手厳しいねぇ~」
サキが去っていったあとで、ミラがメルに話しかける。
「……何よ。手厳しいって」
「だって、最後の言葉、私ほどでもないっていうのは……まるで私に及ばないって意味でしょ?」
ミラがそう言うとメルは嫌そうな顔で否定する。
「違うわよ。あれは本心。アイツがやったことは許さないけど、アイツの治癒魔術のレベルは高かったわよ」
メルの言葉にミラは少し驚いていたようだった。どうやら、本気でメルが嫌味で最後の言葉を言ったと思っていたようだった。
「……しかし、良かったんですか? 帰してしまって。ないとは思いますが、彼女は復習に来るかも――」
「来ないわよ! あの顔見ればわかるわ。もう二度と私達に遭いたくないって顔だったしね」
苦笑いしながらも、少し寂しそうな表情をするメル。
「ただ……」
「ただ?」
「……アイツ、昔の私にちょっと似てたな、って思ったわ」
メルは先程までサキが横になっていたベッドを見ながらそう呟いた。思わず俺とミラは顔を見合わせてしまう。
「あ~……そうだ! 問題も解決しましたので……ワインでも飲みませんか?」
俺がそう言うとメルはキョトンとした顔をしていたが、すぐに優しく微笑む。
「……えぇ。今度は毒入りじゃないワインでね」
メルの言葉にミラが苦笑いする。その後、俺達は遅くまでメルの家でワインを飲みながら夜を明かしたのだった。
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