第148話 弟子入り
「えっと……アンタ、どういうつもりなの?」
メルが信じられないという表情でサキのことを見ている。しかし、サキは満面の笑みのままメルを見ている。
「私……わかったんです。今までの自分が間違ってたって……私はずっと、パーティで冒険ができる人間たちのことを羨ましがっていただけなんだって……だから! もう一度パーティに入ろうって思ったんです!」
「……なるほどね。つまり……また、このパーティを崩壊させて、私を追い出して、ヒーラーの座を奪おうってこと?」
メルが少し皮肉っぽく言うと、サキは慌てて首を横に振って否定する。
「ち、違いますよ! 言ったじゃないですか。間違っていたことがわかったって……ですから、私は今は見習いです」
「……見習いって、どういうこと?」
すると、いきなりサキはメルの両手を掴んで、目を輝かせてメルに話を続ける。
「私、あの後……感動しちゃったんです! 死んだはずの私をゾンビにした上で、完全に蘇生させた……そんなメルさんはなんてすごいヒーラーなんだろう、って!」
「え……あ、あぁ……ま、まぁね……」
「ですから! 私、見習いとしてメルさんの治癒魔術を勉強したいんです! つまり……メルさんの弟子にしてほしいんです!」
「は……はぁ!?」
メルにしては珍しく、大きな声で驚いていた。まぁ、驚いたのは俺も同じなのだが。
「お願いします! 弟子にしてもらえたらもう二度と、パーティを崩壊させるような真似はしません! ですから……」
目を潤ませてそう言うサキ。これ、もしかして、心酔のスキルを使っているのではないかと思ったが……メルは平気だったようで、小さくため息をつく。
「……あのねぇ。私の治癒魔術は人に教えられるようなものじゃないの。弟子入りしたって、何もアンタに教えられないわよ?」
「それでもいいんです! お願いします!」
サキはそう言って深く頭を下げる。メルは困り顔になりながらも、どうにも、サキは諦めそうにないということはわかっているようだった。
「……じゃあ、一つ約束して。私に弟子入りしたら、今後一切、アンタは心酔のスキルを悪用しないこと。いい?」
「え? じゃあ……いいんですか? 弟子にしてもらっても?」
「……弟子にしなかったら、またアンタ、他のパーティを崩壊させそうだし……監視のため仕方なく、よ」
メルがそう言うとサキは最初は呆然としていたが、程なくして満面の笑みでメルに抱きつく。
「ありがとうございます! 師匠!」
「だ、誰が師匠よ! 恥ずかしいからやめなさい!」
メルはそう言って怒っていたが……どことなく、嬉しそうな感じでもあった。
と、ひとしきり抱きついたあとで、サキは俺達の方にもやってくる。
「えっと……今日からメルさんの弟子になったサキです! メルさんのパーティの仲間である皆様、よろしくお願いします!」
サキはそう言って俺達にも挨拶してきた。俺とミラは苦笑いしながらそれに返す。
と、それからまたしてもサキはメルに抱きついていった。俺達はそれを少し離れて温かい目で見守る。
「……弟子かぁ。いいなぁ……」
と、ボソッとリアがそう呟いた。
「いや~……あの弟子を教育するのは、大変だと思いますよ」
思わず俺がそう言ってもリアはイマイチ理解できていない表情である。
とにもかくにも、こうして、人間の真似が上手いサキュバスが、俺達のパーティのヒーラーの弟子になったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます