第145話 当然の報い

「……で、完全に気絶してますけど……どうします?」


 結局、今一度サキをベッドの上に横にして、俺達は話し合っていた。


「まぁ、自分がゾンビになっているって知ったら、きっとウチでもショックだろうね~」


 ミラがニヤニヤしながらメルのことを見る。しかし、メルは怒るわけでもなく、真面目な顔で俺を見る。


「言ったでしょ、後で文句言われてもどうしようもない、って。コイツはそうなるほどのことをしたんだから。当然の報いよ」


 メルは本気でそう言っているようだった。俺が思っていたよりも、メルはかなり怒っていたようである。


「……う、うぅ……」


 と、俺達がそんなことを話しているとゆっくりとサキが起き上がったようだった。


「ひっ……!」


 それと同時に怯えたように身体を縮こまらせる。


「お目覚めかしら? サキュバスさん……あぁ、違うわね。今は……サキュバスゾンビって呼ばないとね」


 メルが邪悪極まりない表情でそう言う。俺もミラも思わず黙ってしまった。


「ど、どうして……どうしてこんな酷いことをするんです! サキュバスにとっては他者を魅了……虜にするのが生きがいなんです! それなのにそのサキュバスをゾンビにするなんて……」


「……酷いこと?」


 と、サキのその言葉にメルは反応し、いきなりサキの着ていた服の首根っこを掴む。


「……アンタ、自分のしたことの意味、わかっているの?」


「へ……な、なんですか……?」


「……このパーティは私の居場所なの。私の居場所はここしかないの。リアも、メルも、アストも……私にとって必要な存在なの。それをアンタは奪おうとした……私はそれを許せない」


 そう言うとメルはサキを解放する。サキは怯えきった表情でメルを見ている。


「私はかつて、仲間を全員ゾンビにされて奪われた経験があるの。それがどんなに悲しく、辛かったか……思い出しただけでも気分が悪い」


「じゃ……じゃあ! なんで私をゾンビにしたんですか!?」


「……その時から、ずっと思っていたの。私から仲間を奪ったヤツを、絶対に同じ目に合わせてやるってね。結局、ソイツはアスト達と一緒に倒したからもうどうでもいいけど……でも、まさか、またしても私から仲間を奪おうとするヤツが来るなんて思わなかった。だから、アンタをゾンビにしてやったわけ」


 メルがそう言うとサキは力がぬけてしまったような表情になる。しかし、メルは追撃を緩めなかった。


「でも……私は優しい方よね。アンタをただのゾンビじゃなくて理性あるゾンビとして蘇生させてあげた……無論、私の命令には絶対服従……逆らうことはできないけどね」


「そ、そんな……あ、アストさん、助け――」


「アストに助けを求めるんじゃないわよ!」


 俺に助けを求めようとしたサキは、瞬時にビクンと反応して視線を反らす。そして、メルは今一度サキの耳元に口を近づける。


「アンタがさっき言っていたこと、そのまま返してあげるわ。このまま私の奴隷として死ぬほど……いえ、死ぬまで可愛がってあげるから」


 メルの鋭い言葉を聞いてから、サキはしばらく無表情のままだったが徐々に目からポロポロと涙をこぼし始める。


「う、うぅ……ぐっ……ご、ごめんなさぁい……!」


 そして、ボロボロと泣き始めてしまった。


 さすがの俺でも今回ばかりはわかる。これは……ガチで泣いているのだ、と。


「泣いたって、アンタがゾンビで、私の奴隷であることに変わりはないわよ。早くそれを理解して、二度と私の仲間にちょっかいを出そうなんて思わないことね」


「ふぇ……わかりましたぁ……もう二度としませんからぁ……!」


 サキはそれからひたすら泣いていた。しかし、俺もメルも、ミラも何も言わずにその様を見続けていた。


 そして、ほどなくしてさすがに涙も出なくなったのか、サキは力なくうなだれて、そのまま動かなくなってしまった。


「……アスト、わかった?」


 と、いきなりメルが俺に話しかけてきた。


「え……何がでしょうか?」


「これが、女が本気で泣いているってことよ。逆に言えば、ここまでしないと女は本気で泣かないのよね」


 サキはそう言ってミラのことを見る。ミラも何故かニヤニヤしながら俺のことを見ていた。


「え……いや、流石に俺でも、サキが本当に泣いているってのはわかりましたが……」


「そう。だから、このサキュバスは本気で自分の行いを後悔して、本気で泣いてたってことよ」


 そう言うとメルはサキに向けて杖を構える。それと同時に見たことのある優しい光がサキのことを包んだ。


 ほどなくしてサキの身体を包んでいた光が消えると……サキの身体はそれまでと同じように美しい血色を取り戻していたのだった。

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