第144話 いつもとは違う魔法
そして、程なくして、治癒魔術が終了したようでメルは魔術を使用するのをやめる。
確かに俺が刺した時の剣の傷も完全に消えている。どうやらメルの魔術は完了したようだった。
「じゃあ……拘束を解きますね」
メルとミラに確認し、俺はサキの両手足を縛っていた縄を解く……と、それとほぼ同時の出来事であった。
いきなりサキが飛び起きると、ベッドの上に立って勝ち誇った顔で俺達を見ている。
「本当にお馬鹿さんですね! アナタ達は! これで私の勝ちです!」
いきなりそんなことを言うサキを、俺もメルもミラも、唖然として眺めている。
「これでアナタ達はこれから永遠に私の奴隷……三人まとめて死ぬまで……いえ、死ぬほど可愛がってあげますよ!」
なぜかかなりのハイテンションでそう言うサキ。しかし……俺達にはどうしてもそのテンションに同調できなかった。
「……あれ? え? なにこれ……」
と、サキ自身もどうやら今の状況がおかしいということをようやく理解したようだった。
「あ……えっと……アストさん!」
「え? なんですか?」
「なんですか、じゃありません! 既にアナタは私に心酔しているんですよ! 私がそのこのヒーラーを剣で斬り殺せと念じたのに、なぜそうしないんです!?」
そう聞かれて俺は思わずミラとメルと顔を見合わせてしまう。それから、苦笑いを浮かべながらサキを見る。
「それは……アナタに心酔していないからじゃないですか?」
俺がそう言うと、サキはあまりの驚いてしまったのか、完全に無表情になってしまう。しかし、すぐさま、信じられないという顔で俺を見る。
「そ、そんなわけないじゃないですか! 私は今、心酔のスキルを最大限まで使っているんですよ! なんで心酔しないんです!?」
「いや、そう言われましても……」
俺はそう言いつつ、メルの方を見る。メルはニヤリと笑みを浮かべてサキのことを見る。
「じゃあ、アンタはどうしてだと思う?」
メルがそう聞くと、サキはメルを睨む。しかし、それから程なくして何か思い当たることがあるかのように、顔をしかめる。
「ま、まさか……さっきの魔法は……私を蘇生させる魔法じゃ……なかったんですか……? だから、心酔のスキルが使えなくなっているんじゃ……」
「そんなことないわ、アンタを蘇生させる魔法だったわよ。いつも私が使う魔法とは違うけど」
「はぁ? どういうことですか? さっきアストさんが言っていましたが、アナタは死者を完全に蘇らせることができるんじゃないんですか?」
「ええ、できるわよ。だから、言ったでしょ? いつも私が使う魔法とは違う、って」
そう言われてしばらくサキは怪訝そうな顔をしていたが、何かを理解したかのように、慌ててベッドから飛び降りる。
「あぁ、洗面所は隣の部屋ね」
そう言ってメルが指差す方へサキは走っていく。
「……きゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
程なくして悲鳴が聞こえたかと思うと、それと同時に何かが床に倒れる音が聞こえる。
俺達は悲鳴のした洗面所に向かっていく。そこには……顔面蒼白で床に倒れたままのサキの姿があった。
もっともサキの皮膚の色は……ベッドの上でイキっていた時点から、それこそ、死人のような色になっていたのだが。
「そりゃあ、自分がゾンビになっているってわかったら……驚くわよね」
メルが満足そうな笑みを浮かべながらそう言う。
まぁ……サキが卒倒してしまうも無理はないだろう。
メルが言っていたように、メルがサキに使用したのは、メルだけが使える完全蘇生魔術ではない。
死者をゾンビとして蘇らせる……『リヴァイヴ』の魔術だったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます