第143話 サキュバスの悲哀

「……で、その嘘泣きはどういうつもりなの?」


 しかし、メルは冷徹と思えるくらいの調子の声ではっきりとそう言った。


「そうだね~、ここで泣いて騙されるのは……アスト君くらいだろうね~」


 ミラも同様にニヤニヤしながらそう言う。


 これは……嘘泣きなのか? どう見てもサキは本気で泣いているように見えるが……


「そんな! 酷いです……このままだと私死んじゃうんですよ? 嘘泣きなんてする意味ありますか!?」


 サキは必死の顔で俺にそう言う。この表情は嘘をついているようには見えないが……


「……私も……ホントは誰かとパーティを組みたかったんです」


「え? だって、アナタは……サキュバスでしょう?」


 俺がそう言うと、サキは悲しそうに視線を伏せる。


「私は……人間のフリが上手いから、人間にまぎれて、ヒーラーとして活動していました……でも、どうしてもサキュバスの性質上、ずっと一緒に行動していると……メンバーが私に心酔してしまうんです……」


「それで……パーティは崩壊してしまった……?」


 俺がそう言うとサキは小さく頷く。


「……嫌になってしまいました。私はただ、誰かと一緒にいたいだけだったのに……いつしか私はパーティを崩壊させる淫魔だって言われるようになりました……フフッ……間違ってはいないんですけどね……」


 サキは自嘲気味に微笑みながら、助けを乞うように俺のことを見る。


「だから、思ったんです……それならいっそ、全てのパーティを崩壊させてやろう、って……でも……ホントは……」


 そう言ってサキはまたしても涙をこぼし始める。さすがに放っておけない……俺はそう思ってしまった。


「……メル、ミラ。その……」


 俺がそう切り出すと、二人は顔を見合わせてから大きくため息をつく。


「……言うと思ったわよ。そうね……いいんじゃない。アストの好きすれば」


 メルは少し投げやりにそう言う。ミラもなぜかニヤニヤしながら俺のことを見ている。


「……わかりました。では……」


 俺はそう言って腰元の剣を抜く。そして、サキにその剣先を向ける。


「サキ……アナタの言ったことを信じます。ですが、今のままではアナタは苦しむばかりです。だから……」


 俺がそう言うとサキは嬉しそうに目を細める。


「フフッ……アストさんは……ホントに優しいんですね……いいですよ。私……アストさんになら……」


 その言葉を聞くと共に、俺は思いっきりサキに向かって剣先を突き立てた。サキは目を大きく見開いたあとで、程なくして完全に動かなくなってしまった。


「……メル。お願いできますか」


 俺がそう言うとメルは明らかに嫌そうな顔で俺を見る。


「いいけど……後で文句言われても、どうしようもないんだけど」


「えぇ……その場合はその場合ですから」


 俺も苦笑いで返すと、メルは渋々杖を構え、サキの身体に対して魔術を施し始めたのだった。

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