第141話 隷属の接吻
「……な、なるほど……サキュバス、ですか……」
心酔の影響になんとか抗いながら俺は言葉を返す。サキュバスのサキは、目を丸くして俺のことを見ている。
「あら? まだ喋れるんですね。驚きです」
「な、なぜ……このパーティに?」
「なぜ? そんなの……このパーティをめちゃくちゃにしてやりたいからに決まっています♪」
馬鹿にしきった笑顔で俺にそう言うサキ。不味い……馬鹿にされているというのに、その言葉がむしろ、心地よく聞こえてきてしまう。
転生前は確かにあらゆる状態異常に耐性があったが……そもそも、心酔というものを経験したことがあまりない……俺でもかなり影響を受け始めているようだ。
「……最初に……俺に話しかけてきたのは?」
「前にたまたまアストさんを街で見かけたんです。男一人に女三人って、ちょっと突いてやればすぐに崩壊しそうだなぁ、って思ったんですよね」
「しかし……アナタが目をつけたのはリアだったじゃないですか……」
「最初に堕としやすそうなのから堕として、それから本命を堕とすってのが私の主義なんです。実際、アストさん、今そうなっていますしね」
……残念ながら否定はできない。正直、腕輪から引き出している力はかなり限界まで近い。純粋な戦闘ではなく、まさかこんな状況でここまでの力を引き出させられるとは思わなかった……
あとはもはや時間の戦い……俺達の計画の効果が現れるまでの戦いだ。
と、いきなりサキは俺の方にぐいと身体を寄せてくる。これは……どう考えても一気に畳み掛ける気だ。
「アストさんも知らないわけじゃないと思いますけど……サキュバスにキスされるとどうなるか……わかりますよね?」
そう言って唇を指先でゆっくりと触るサキ。無論、知っている。サキュバスのキスはこの世界である意味ではもっとも強力な魅了魔術のようなものだ。
キスされてしまえば最後、状態異常解除魔術を使わない以外、永遠にサキュバスの奴隷になってしまう。
つまり……サキは最後の仕上げにかかろうとしているのだ。
「さて……アストさんを私の奴隷にして、他の人達に対して何をさせてやりましょうか……あの人達が完全にアストさんのことを嫌いになるまであらゆることをさせてあげます。そして、このパーティを完全に崩壊させてあげますね」
「そ、そんなの……嫌です……」
「フフッ……アナタに拒否権なんてないんですよ。大丈夫。パーティが完全に崩壊したら、アストさんも奴隷から開放してあげますよ」
ニヤニヤしながら俺の方に顔を近づけてくるサキ。腕輪の力が最大のはずなのに、身体が動かない。
ついに目と鼻の先までサキの顔が近付いてくる。
まだ効果は顕れないのか……もう、駄目なのか……そう思った矢先だった。
「ぐふっ……」
身体の中から激痛が走る。それと同時に俺は……吐血し、その場に倒れ込んでしまった。
「え……ちょ、ちょっと……いきなり、どうしたんですか……?」
さすがのサキもあまりのことに驚いてしまったようだ。不安そうに俺の顔を見る。
「え、えぇ……大丈夫ですよ……どうせ、後で生き返りますから……」
「は? 何言って……ぐがっ……うげっ……がぁっ……!」
程なくしてサキも苦しみだした。身体をくの字に曲げながら悶絶している。
あぁ……なんとか、ギリギリ計画は成功した……そう思いながら俺は、そのまま意識を失ったのだった。
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