第140話 正体見たり

「うわぁ……結構おしゃれな家に住んでいるんですね、アストさん」


 俺は計画通りに、俺の自宅……と場所にまでサキを連れてきた。


「えぇ……あぁ、そうだ。治癒魔術を使って貰う前に、少しワインでもどうですか?」


「ワイン? アストさん、本当におしゃれなんですねぇ~」


 わざとらしくそう言うサキ。俺は構うこと無くそのままワインの瓶を開け、グラスの中に二杯を注いでいく。


「それじゃあ……乾杯しましょう」


 嬉しそうにしながらサキもワインを口の中に流し込む。俺もとりあえずワインを飲んだ。かといって、これで酔ってしまうわけにもいかないのだが。


「じゃあ、さっそく私にさっきの怪我、直させてください」


 言われるままに俺はサキに、先程傷がついた方の手……左手の方を見せる。


「へぇ~……アストさん、手、大きいですね~。やっぱり、男の人は違うなぁ~」


 そう言ってなぜか手を撫で回しまくってくるサキ。俺はくすぐったくなってきてしまって思わず手を引っ込めてしまう。


「あの……早く、治癒魔術を使ってください」


「フフッ……そうですね、ごめんなさい。さぁ、もう一度手を出してください」


 俺は今一度手を差し出す。すると、サキがその両手を俺に向けてかざす。以前見たのと同じように、ピンク色の光が俺の手を覆う。


「あ……うっ……」


 それと同時に強い快感が襲ってくる。痛かったはずの手が、なぜかその何倍も気持ち良いという感情に包まれ始めるのである。


「どうしました? もしかして……気持ちいいんですか? いいんですよぉ? 我慢しないで」


 すると、既に傷は治っているというのに、サキの手は俺の手を掴む。ピンク色の光がさらに強くなる。


「さ、サキ……!? も、もういいですから……」


「遠慮しないでください。ほら、私の目を見て」


 俺はなんとかサキの方から顔を反らす。ちらりと右腕を見る。既に腕輪はかなりの輝きを放っている。


 おそらく……すでにサキの心酔の能力……魔物としてのスキルは発動している。普通ならば俺もリアと同様にサキの術中にハマっているだろう。


 だが、腕輪の力で俺は転生前の耐性を引き出している。しかし、今の状態でもかなりギリギリだ。俺はより強く祈った。


「無理しても……意味ありませんよ?」


 と、いきなり顔を両手で掴まれ、無理やりサキの方に顔を向かせられる。その力は……明らかに人間の女性の力ではなかった。


「あ!」


 思わず俺は声を漏らしてしまった。


 サキの姿は……先程までとは異なっていた。


 頭部には角、背中からは蝙蝠のような羽が生えており、おまけに悪魔系モンスターの尻尾のようなものも臀部から伸びている。


 そして、その目は……妖しくピンク色に光っていた。


 その目を見ると同時に恐ろしいほど大きな快感が襲ってくる。


「あっ……がっ……!?」


「フフッ……我慢しないでいいんですよ~? 普通の冒険者ならサキュバスの心酔をここまでモロに喰らってしまったら、とっくに私にメロメロになっている頃なんですから」


 勝ち誇ったように嗤うサキ。


 どうやらミラの見立て通り……サキは、サキュバスだったようであった。

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