第138話 妖艶な彼女
「……サキが……魔物?」
いきなり言われた言葉を俺は思わず復唱してしまう。と、ミラに慌てて口元を塞がれる。
「アスト君……離れているとは言え、もし、私の仮説が正しければ充分に聞こえている距離だよ」
そう言ってミラは前方を歩いているリアとサキを見る。楽しそうに話をしているのを見る限り、俺の言葉は聞こえなかったようである。
「……すいません。でも……いきなりそう言われても……」
「そうだね、ウチがそう思った経緯を順を追って話そう。まず……状態異常を解除する魔法を使っても、勇者サマには効果がなかった。つまり、勇者サマにはなんの状態異常もかかっていないってことだ」
「そうですね……でも、それがサキを魔物だと思う理由ですか?」
「……状態異常ではなく、もし、それが固有の能力……魔物が最初から持っている能力だとすれば、状態異常の解除では効果がないよ。それこそ、魔物本人を殺すか、本人が能力を解除しない以外にね」
「なるほど……確かに魔物の中には魔法ではなく、固有の能力を持っている者がいますね」
それこそ、レイリアのような吸血鬼の超速再生は魔法ではなく、魔物固有の能力だ。確かに魔物本人がそれを解除しない限りには終わりがないだろう。
「つまり……リアがああいう状態なのは……そういった固有の能力の影響を受けているってことですか?」
「その通り。最初ウチは勇者サマは魅了の状態異常を受けているのだと思っていた。だから、あのヒーラーにどんどん依存していくんだ、って……でも、魅了の状態異常はそもそもかかっていなかった。それなのに、勇者サマの状態はあのまま……ウチが知っている限りのあの状態は一つだけ……『心酔』だよ」
「心酔? つまり、ミラはサキに完全にその……入れ込んでいるってことですか?」
「そんな生易しいものじゃないよ。既に彼女の中にはメルの存在はない。いずれ、ウチのこともアスト君のことも彼女の中から消える。残るのはあのサキっていうヒーラーのことだけ……それが心酔だ」
「そんな……心酔は状態異常じゃないんですか?」
「違う。だからこそ厄介なんだ。かつてはウチの一族でも、心酔を使える存在を暗殺に利用しようとしたんだけど……扱いが面倒すぎるからやめたんだ」
そう言ってからミラは俺のことを見る。
「……ここまで言えば、心酔を使える魔物がどんな存在かわかるね?」
「え、えぇ……しかし、どうするんです? サキに頼み込んで能力を使うのをやめてもらうんですか?」
「そんなの、絶対に受け入れないよ。彼女は今楽しんでいるんだ。ウチらのパーティが少しずつ崩壊していくのをね。そして、真の目的は……アスト君、君だ」
「え? 俺、ですか?」
信じられないという感じで返事をしてもミラは真面目な顔で俺を見る。
「だから……アスト君。ここまで分かっているのだから、ウチに一つ、提案があるんだ。耳を貸してくれ」
言われるままに俺はミラに耳を貸す。そして……その話を聞いて、俺はこれから自身が何をするのか、そして、その提案が危険を伴うことを理解する。
「お二人共、どうしたんですか?」
と、いきなり声が聞こえてきて俺たちはとっさに離れてしまう。
「フフッ……お二人で内緒話ですか? もしかして……私には聞かれたら不味い話でもしていましたか?」
それまでとはまったく違う妖艶な視線で俺達を見るサキ。いや、ミラに聞いた話のせいで余計にそう思えるのかもしれないが。
と、ミラが俺に目配せをしている。俺は覚悟を決めた。
「……サキ。その……今日、少しお話をしたいのですが」
俺がそう言うと、サキは一瞬目を丸くしたが、すぐにニンマリと邪悪に微笑む。
「えぇ。もちろんですよ。ゆっくり……お話しましょうね」
そう言ってニンマリと嗤うサキは……確かに人間には思えない妖艶さなのであった。
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