第134話 化けの皮
結局その後、集会所に戻った俺たちは、適当なクエストを受注し、街から少し離れたダンジョンに潜ることにした。
「クエスト……私、初めてです!」
明らかに雰囲気が悪いパーティの中で唯一、サキだけが異様にテンションが高かった。
「そ、そうなのか! サキは今までパーティに所属してこなかったのか?」
リアがそう訊ねると、サキは少し悲しそうな顔をする。
「いえ……何度かパーティには所属していたんですけど……私、役に立たないって言われていて……クエストに出る前に何度もクビになってしまっていたんです……」
「そ、それは……可愛そうだったな……大丈夫だ! 私も似たような経験があるからな!」
「え? リアさんもそうなんですか?」
「あぁ! 私もパーティをクビになったことがある。だが、このパーティではそんなことはしないからな! 安心してくれていいぞ!」
「うわぁ! リアさんって優しいんですね!」
そんな二人の会話を、俺たち三人は少し離れた距離から見ていた。
明らかに煽てられているというのも、傍から見ればわかりそうなのだが……リアは完全にサキにメロメロになってしまっているようだった。
「……何よ、あれ。よく思ってもいないことをペラペラ言えるわね」
メルが今にも怒り出しそうな表情でそう言う。俺も同じ気持ちではあったが……
「なんというか……明らかにわざとらしいですね」
「そうだね。あんなの、ウチだったら逆にバカにされているように感じるけどね」
ミラもそう言って苦々しい顔をしている。しかし、リアは嬉しそうである。
まぁ、リアとしては、レイリアのせいでもあるが、これまでどこか負い目を背負って冒険をしてきわけだし、あんなふうに褒められてしまうと嬉しくなってしまうのはわかるのだが……
「……絶対、アイツの化けの皮を剥いでやるんだから」
メルは苛立たしげにそう言う。しかし、なんというか……あのわざとらしさ、逆に手慣れている感じがする。そう簡単に化けの皮を剥がすのは難しいのではないかと思った。
それから、ダンジョンに着くと、そのまま潜入する。メインの火力は俺とリアなのだが、今の俺とリアのレベルならばそこまで苦戦しないダンジョンだった。
程なくしてクエストの依頼にあった素材を回収し、そのままダンジョンから戻ることにした。
「ふぅ……あまり苦労しなかったな」
「えぇ。私達も強くなりましたからね」
リアも満足げにそう言っている。俺も腕輪の力を使わずともダンジョンをクリアすることができ、達成感を感じていた。
「あぁ!」
いきなり素っ頓狂な声が聞こえてくる。と、慌ててサキがリアに駆け寄っていく。
「なっ……どうしたんだ? サキ?」
「リアさん……ここ! 怪我しているじゃないですか!」
と、確かに、リアの腕の部分に切り傷があった。先程戦闘したモンスターの攻撃が掠ったのだろう。
「あ、あぁ……大丈夫だ。これくらいの傷なら――」
「駄目です! 今すぐ治しますね!」
そう言うと、サキは両手をリアの傷口に向かって当てる。それとともにピンク色の光がリアの腕の傷の部分を包む。
「あ……あっ……あぁ~……」
リアが脱力するような間の抜けた声を出すと共に、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。今度は俺が慌ててリアに駆け寄っていく。
「リア! 大丈夫ですか!」
俺は思わずサキを睨む。しかし、サキは笑顔で俺を見ている。
「どうしたんです? そんな怖い顔をして」
「アナタ……やはり……」
「やはり……なんです? リアさんの傷は治しましたよ?」
そう言われて俺はリアの傷の部分を見る。と……確かに傷は、跡形も無くなくなっていた。
「す、すごかったぁ……」
「え? リア……一体どうしたんです?」
「サキが治癒魔術を使うと……ものすごくその……気持ち良いんだ。まるで温かいお湯に浸かっているかのような……そんな気分になったんだ……」
リアはそう言って確かに気持ちの良さそうな顔をしている。どうやら、先程のは治癒魔術ではあったらしい。
「どうです? アストさんも私の治癒魔術、受けてみますか?」
「……いえ。遠慮しておきます」
「そうですか。残念……しかし、リアさんの態度を見るに、このパーティでは少しの怪我は放っておくようですね。少しの怪我が大きな怪我につながる可能性もあるというのに……このパーティのヒーラーは何をしているんですかね~?」
わざとらしく嫌味たっぷりにそう言って、サキは、明らかにメルを挑発しているのであった。
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