第133話 違和感
「メル! 待ってください!」
慌てて追いかけると、なんとかメルに追いつくことができた。メルは不機嫌そうな表情で俺のことを見る。
「……何?」
「メル……どうしたんですか? あんないきなり……」
「……だって、リアは私より、あの新しい子がいいんでしょ?」
「違いますよ。リアは……パーティの安全を考えてヒーラーを増やそうとしているだけです」
俺がそう言ってもメルは信じてくれなさそうな感じだった。どうやら自分以外のヒーラーを加入させることを決定したことに対して完全に怒っているようである。
「……信じられない。だって……私は何度もリアのことを助けた。それなのに、私以外のヒーラーなんて必要なわけ?」
……確かに俺もそう思っていた。パーティのことを考えるリアとはいえ、あんなにも簡単に新しいヒーラーをパーティに加入させるものだろうか?
「ウチも少しおかしいと思う」
と、背後から声が聞こえてきた。俺とメルは同時にそちらを向く。
「ミラ……」
てっきり集会所に残っていると思っていたミラも俺に付いてきていたようだった。
「ウチが来るよりも前に勇者サマはあの新ヒーラーさんと会っていたからね。詳しいことはわからないけど、既にウチが来たときには勇者サマはあのヒーラーを入れることを決めてたみたい」
「はあ? リアは……そんなにアイツのことが気に入ったの?」
メルが信じられないという顔をするが、対象的に落ち着いた様子のミラは首を横に振る。
「ヒーラーさんは、勇者サマのこと、信じていないわけ?」
「え……信じてないって……」
「勇者サマは確かにお人よしでおっちょこちょいだけど……ウチらへの信頼は厚い。ウチらと同じくらい……ううん。それ以上にウチらのことを信頼してくれているだろうね。そんな勇者サマが君という存在があるのに、簡単に新しい仲間を引き入れた……これはちょっとおかしいとウチは思うよ」
ミラは淡々と、しかし、冷静にそう言う。というか……ミラがリアのことをそんなふうに思っているとは少し意外だった。
「……つまり、アイツが何かリアにしたってことなの?」
「何か……わからない。勇者サマは何か状態異常にかかっているというわけではないようだった。状態異常の専門家のウチでも知らない状態異常かもしれないけど……とにかく、違和感があるよね」
ミラのその言葉に段々とメルも落ち着いてきたようだった。俺も少し安心する。
「それで……そのリアはどうしているんです?」
「もちろん、集会所で、新ヒーラーと一緒にいるよ。あの感じだと今は何を言ってもあのヒーラーを加入させることに関しては決定を変更できないだろうね」
「じゃあ……どうするのよ」
メルがそう言うとミラは鋭い目つきで俺とメルのことを見る。
「……この違和感の正体がわかるまで、待つしかない。あの新ヒーラーの手がかりを掴めるまで様子を見ようじゃないか」
ミラの言葉にメルはあまり納得できていないようだった。俺もメルの気持ちはわかるが……ここは我慢するしかないだろう。
「メル……我慢できますか?」
「……大丈夫。別にこういう経験は初めてってわけじゃないし……」
そういってメルは周顔所の方に戻っていく。その表情は寂しそうだった。俺はメルには……そんな表情をしてほしくなかった。
「アスト君。少し聞きたいんだ」
と、歩きだしたメルの後ろ姿を見ながら、ミラは俺に話しかける。
「あの新ヒーラーの話を少し聞いていたんだけど……最初、あのヒーラー、勇者サマに対して『アストさんのパーティの勇者さんですよね?』って聞いてきたんだよ」
「え……そういえば、最初に会ったときも、なぜか、俺のことを聞いてきました」
と、メルは少し考え込むように俯く。
「普通、パーティの主役は勇者なんだから、あんな聞き方はおかしいと思うんだ。もしかすると――」
そう言ってミラはしばらく俺のことを見ていたが……何も言わなかった。
「……いや、まだ推測の段階だからね。言わないでおこう」
不敵な笑みを浮かべるミラ。俺は……なんだか余計に不安になってきてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます