第135話 疑い
「なんなのよ! アイツは!」
苛立たしげにそう言いながらメルは思いっきり机を叩く。
酒場であっても、机を叩けば周囲の視線は集中した。
「メル、落ち着いてください……」
「落ち着いていられるわけ無いでしょ! 明らかにアイツ、私のことバカにしてたじゃない!」
……それに関しては否定できない。というより、あの感じはわざとなのだろうが……一体何が目的でそんなことをするんだ?
それに、リアが言っていた「気持ちの良い」治癒魔術というのも気になる。
「メル、一つ聞きたいのですが」
「……何よ」
「その……使うと気持ちがよくなる治癒魔術って、ありますか?」
自分でも馬鹿らしい質問だと思ったが、俺はメルにそう聞いてみた。メルは目を丸くしていたが、すぐに首を横にふる。
「確かに……傷が治るときに少しの爽快感があるって話は聞いたことあるけと、気持ちが良くなる治癒魔術なんて聞いたことないわ」
「そう……ですか」
だとすると、サキの治癒魔術も、メルとは別で特異なものだということか。まぁ、特異な魔術を使うっだけなら、それだけで怪しいということはできないが……
「ちょっと、アンタ。さっきからずっと黙ったままじゃない」
メルの言う通り、ミラは先程から何かを考え込むように黙っていた。
「ミラ。何か考え事でも?」
「……あのサキってヒーラー、クエストは初めて、って言ってたよね?」
「え? そうですね……でも、それが何か?」
「普通、初めてのクエストでモンスターに会ったらもっと取り乱すと思うんだよ。でも、彼女は落ち着いてた。それに、モンスターってのは本能で、大体パーティの中でも弱いヤツを集中的に狙う。でも、彼女はまったく狙われなかった……それがどうにも引っかかるんだ」
ミラの言うことは確かに一理ある。サキはまったく動じることなく、俺たちに同行していた。この前行ったダンジョンは初級というより中級レベルのダンジョンだ。そんなダンジョンに入ってクエスト初体験者が落ち着いていられるものだろうか。
「だけど、やはりこれでもまだ、彼女が化けの皮をかぶっているという決定打にはならない。ウチらが疑っているということを悟らせずに、もう少しの間、彼女を泳がせる必要があるね」
「泳がせるって……大丈夫なんですか? その間にメルは……」
と、珍しく、メルが机に突っ伏して眠ってしまっているようだった。よほど、この状況が堪えているらしい。
「まぁ……ヒーラーさんには耐えてもらうしかない。それに……ウチの考えでは彼女の真の目的は勇者サマじゃないだろうしね」
そう言ってミラは俺のことを見る。どうやらミラはあくまで、サキの目的が俺だと確信しているようである。
「……とにかく、メルにはもう少し我慢してもらわないといけないみたいですね
「そうだね……じゃ、ヒーラーさんのこと、後はよろしく」
「え? ちょっと、ミラ……いない」
既にミラの姿はなかった。どうやら「ステルス」で姿を消したらしい。
珍しく完全に酔って眠ってしまっているメルのことを見て、俺は思わず大きなため息をついてしまうのであった。
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