第129話 ヒーラーの不満
「……で、問題は解決したわけ?」
ミラの件が終わり、街に戻ってきてから数日後の夜、俺は酒場にいた。
目の前には……少し頬が紅いメルがいる。
「え、えぇ……まぁ、一応は……」
「一応は? なにそれ……こっちは大変だったんですけど?」
メルは明らかに不機嫌そうな顔でそう言う。
「……リアはともかく……姉上がね……」
「ラティアが……どうしたんですか?」
「……世間知らずっていうのかしら? 市場に行った時も商品を買う前に食べようとしちゃうし……色々教えるのに苦労したのよ?」
「あ、あぁ……本当にごめんなさい……」
メルは大きくため息をつく。メルには本当に苦労をかけてしまったようだ……
「別にいいわよ……でも、不満なんですけど」
「え? 不満とは?」
と、メルはいきなり俺の方に身を乗り出してくる。酒なのか、それともメルの髪の匂いなのか、甘い良い匂いが漂ってくる。
「リアの件も、ミラの件も……アンタはあの子達のために尽くしてあげたわよね? でも……私はどうなの?」
見ると、メルの目はとろんとしているというか、据わってしまっているように見える。メルにしては珍しく、飲みすぎているのだろうか?
「メル……少し飲み過ぎでは?」
「大丈夫よ。ただ……話を聞いていると……リアやミラと違って……私は普通だなぁ、って……」
「普通って……メルだって、色々な苦労を経験してきたじゃないですか」
「そうね……苦労をしてきたわ……今でも、してるかも……」
そう言ってメルは酒を口に含みながら、俺のことをチラリと見る。なんだかとても申し訳ない気持ちになってしまった。
「あー……そろそろ帰りますか? 今日は誘ってくれてありがとうございます」
「……明日も、付き合って」
ボソリとメルはそう言った。その言葉は短かったが、明確な響きがあった。
「私に対しても、少しは尽くしてくれても良いんじゃない?」
「……ええ、もちろんです」
メルは薄っすらと微笑んだ。その笑みは美しかったが……その時俺にはまたしても何かが起きそうという予感がしてしまったのであった。
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