第128話 ウチの居場所
「いやぁ~、すごかったね~」
俺たちが拠点としている街への帰り道、何度目かわからないくらいにまたしてもミラは俺にそう言った。
「ミラ……その……何度も言われると恥ずかしいのですが……」
「え~? だって、ホントにすごかったからさぁ。あのヤト姉様が呆然としちゃって……フフッ。思い出しただけでも笑えてきちゃうよね」
結局、俺は腕輪の力に飲まれずに、なんとかヤトに勝つことができた。
ヤトは俺のことを信じられない存在であるかのような目つきで見ていたが……とにかく、またミラと旅をすることを許可してくれたので、そんなことは些細なことだった。
「……それにしても、まさか、ミラ姉様が泣くとは思いませんでした」
と、そう言うのは俺達と同様に街へ帰ろうとしているキリだった。
「そう? いや~、あそこはさすがに泣かないと不味いかなぁ~、って思ってさぁ~」
「……え? ミラ、もしかしてあの時泣いていたのは……演技だったのですか?」
流石に俺も信じられなかった。俺がヤトとの戦いに勝てたのもミラの涙があってこそである。それが偽りだったとなると……
ミラはニンマリと微笑みながら俺のことを見る。
「さぁ~? アスト君はどう思う?」
「どう思うって……俺はミラが俺たちのパーティから外れることになるかもしれないと思ったから必死だったんですよ?」
「うん。ウチだってそうだよ。絶対に今のパーティから外れたくない。だから、アスト君には絶対にあそこで勝ってもらいたかった……そのためにはウチも少し応援する意味で何かしないとなぁ、って思ったんだよね~」
……今の言い方だとどう考えてもあの涙は偽りだったことを認めたわけだが……まぁ、ミラとしても今のパーティから離脱したくない一心だったのだと理解すれば、そこまで責める気にはなれなかった。
「……でも、結局、ヤト大姉様には……私達は認められませんでしたね」
キリは少し残念そうにそう言う。そう言えば、そもそもの目的は姉妹の仲を取り戻す的なものであったはずだ。結局、今回の騒動を思い返すと、ミラやキリはヤトと理解し合えたとは思えなかった。
「まぁ、ウチは最初から無理ってわかってたしね」
「……は? な、何言っているんですか? 姉様?」
キリも驚いていたが、俺も思わず驚いてしまう。しかし、ミラは相変わらずの飄々とした表情だった。
「だって、ヤト姉様って、ああいう性格でしょ? 最初から分かり合えるなんて思ってないよ~」
「……じゃあ、なぜ、わざわざ危険な目にあってまで故郷に戻ったのですか?」
キリがそう質問すると、ミラは少し間を置いてから、なぜか俺の方を見る。
「ウチの居場所がどこなのか……確認したかったから、かな?」
「……居場所、ですか?」
俺が聞き返すと、ミラは小さく頷く。
「……勇者サマと氷の姉上みたいに仲が良い姉妹ばかりじゃない……ウチ自身だって、キリちゃんにとっては尊敬できる姉様じゃないでしょ?」
「……そ、そんなことは……」
「別にはっきり言っていいよ~。そんなウチでも居られる場所は本当はどこなのか……確認したかったんだよね~」
ミラは少し寂しそうな顔でそう言った。ミラは涙を流したのは嘘だと言っていたが……じゃあ、あの夜の話も嘘だっていうのか? 俺は少し考えてしまう。
「それで……居場所は、わかったのですか?」
俺はそう思いながらもミラに質問する。すると、ミラはニッコリと微笑む。
「うん、わかったよ。だから……これからもよろしくね、アスト君」
笑顔でそういうミラ。その笑顔は魅力的だったが……どうにもやはりミラには、まだ俺の知らない部分がたくさんあるのだろうなと感じてしまうのであった。
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