第127話 剣雨

「なっ……なんで……アナタ、一体……」


 二刀流になってからは、大分戦いやすくなった。というよりも、腕輪の力をレイリアのときよりも引き出しているのだ。それも当然といえば当然なのだが。


 先程まで目にも止まらないという感じだったヤトの動きも止まって見える……やはり、俺の相手ではないようだ。


 既に分身も消滅し、一体だけになったヤトは俺の剣戟を避けるの精一杯といった感じだった。


「わかっただろう? お前は俺には勝てないんだ」


「え……あ、アナタ……急にどうしたんですか?」


「どうしたって……どうもしていないだろう? さぁ、降参するなら早くしろ」


 ヤトは怪訝そうな顔をする。何がおかしいというのだ? 俺の強さに疑念を持っているのか? まぁ、それも仕方ない。俺はなんといっても最強の――


「……はっ!?」


 その瞬間、俺は夢から覚めたようだった。ヤトが相変わらず不審げな顔で俺を見ている。


 ……不味い。明らかに今、俺は腕輪の力に飲まれていた。


 俺が……俺でなくなっていた。


 腕輪の力を引き出しすぎた……これ以上は危険だ。


「……失礼しました。ヤト……これ以上はやめましょう。負けを認めてくれますね?」


「……いいえ。認めません。私も……まだ、アナタに言っていない秘密がありますから」


 そう言うと同時にヤトは目を閉じる。そして、静かに呪文を唱えた。


 すると……ヤトの背後にあった影が次々と分身していく。そしてその影から……全く同様なヤトの姿が現れたのだった。


「……『シャドウ』で作り出せる分身が一体だけと思いましたか? 先程の言葉……アナタこそ、敗北を認めては?」


 俺は完全に周囲をヤトの分身……およそ百人の分身に囲まれる形になった。確かに……一気に襲いかかられれば仮に二刀流であっても捌き切るのは不可能だろう……


「姉様! もうやめて!」


 と、そこで聞こえてきたのはミラの声だった。


「……ウチが……ウチが悪かったから……でも……アストのことは……もう……」


 ミラがそう言いながら涙を流している。俺はその時ミラが泣いているのを始めてみた。そして、あのミラが泣いているという自体がどれほど大変なことであることかを、理解することができた。


 それと同時に俺の中でヤトにわかってもらわねばならないと思った。


 ヤトは……絶対に俺に勝てないということを。


 俺は右腕の腕輪の左手を重ねる。


 腕輪の力が大きくなっていくのを感じる。しかし……俺は飲み込まれない。ミラが泣いていたのだ。飲み込まれるわけにはいかない。


 そして静かに呟く。


「……『剣雨ソード・レイン』」


 それと同時に、先程と同様に空から剣が降ってきた。その一本は、丁度、ヤトの分身に突き刺さり、分身は消滅する。


「……なんですか? 悪あがきですか? 一本だけではどうにも――」


 喋っているヤト……それも分身だったようだが、そこにも剣が突き刺さる。ついで、続々と剣が空から降ってくる。


 それはまるで……剣の雨が降っているような不思議な光景だった。


 剣の雨が降り注いだあとには、地面にはそれこそ、無数の剣が突き刺さり、その剣山の中心には……腰が抜けてしまっているのか、ヤトの本体が地面に座り込んでいるだけなのであった。

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