第126話 剣穿
「……実は四姉妹だったんですか?」
俺が思わずそう聞くと、目の前の二人のヤトは同時に首を振る。
「いいえ。これは私の言わば、分身のようなものです」
「分身……それは、魔法ですか?」
俺がそう尋ねると、ヤトは小さく頷く。
「魔法としては『シャドウ』と呼ばれているものです。しかし、私やミラ、そして、キリが使っているのは正確には魔法ではありません。私達の祖先はかつて暗殺や隠密を仕事としながらで、魔法のようで魔法でない、不思議な術を使う一族であったそうです」
「なるほど……その能力が未だにアナタやミラにも受け継がているってことですか」
「ええ。で、どうしますか? アナタには既に私のナイフの一撃が決まりました。当然、ミラと一緒に旅をしているアナタならそれがどういうことか、理解できますよね?」
当然、身を以て俺も理解している。現在、身体中にまるで刺すような痛みが走り回っている。おまけに、どうにも身体が自由に動かない。おそらく、ミラと同様にヤトも、毒や麻痺を使うタイプなのだろう。
「え、えぇ……わかっていますとも……」
「では、降参しますか? それとも、ミラとの婚約をここで誓いますか?」
俺は霞み始めた視界でミラのことを見る。ミラは、今まで見たことのないような不安そうな顔で俺のことを見ていた。
あのいつも飄々としたミラがあんな表情をするなんて……それと同時に、そんな顔をさせてはいけないという思いが俺の中で一気に強くなる。
同時に腕輪の光が一気に強くなる。眩い程の光は俺を包むと……身体の痺れや痛みは一瞬にして消え去った。
「……なんですか、今のは」
ヤトが怪訝そうな顔で俺のことを見る。
「……アナタは俺に大してそんな魔法が使えることを秘密にしていましたよね? 同様に俺にも秘密があるってことです」
ヤトは苛立たしげな顔で俺を見る。
「……では、今一度、同じ目に合わせてあげましょう。アナタが、ミラとの婚約を受け入れるまで!」
そう言うとヤトは同様に地面に何かを叩きつける。それと同時に煙が辺り一面に広がった。
……このままだとおそらく、分身したヤトの同時攻撃には対応できない。今までは一対一の戦いだったが、今俺は数的なふりを強いられている。
そうなると、俺に必要なのは……手数だ。右手に持っている一本の剣だけでは足りないのである。
「……久しぶりに、使いますか……あの術を」
と、俺は右腕の腕輪に今までで一番の祈りを込める。
(そうだ……この術を使うということはお前はもうギリギリってことだ。だったら、全てを開放しろ。そして、思い出せ……自分のことを……!)
聞こえてくる声を必死に無視する。それと同時に腕輪の光が大きく光り始める。
煙の向こうから影が迫ってくる。もうすぐそばまでヤトがやってきている。
俺は剣を構え、静かにつぶやく。
「……『
それと同時に空から、いきなり何かが降ってくる。それは……俺の目の前に迫っていた二人のヤトの直前に突き刺さった。
「え……な、何? 剣……?」
ヤトの目の前には……剣が突き刺さっていた。俺はそれを引き抜いて左手で装備する。
「さて……これで、二対二、ですね?」
右手と左手の両手に二本の剣を装備し、俺は二人のヤトと対峙するのだった。
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