第120話 深夜の訪問
それから部屋に戻ってみたのだが……どうにも不安だった。
ミラは明らかに様子がおかしかったし、別れ際に言った言葉も気になる。そして何よりヤトのあの素振り……何かが起こっていることは俺にも理解できる。
何か重大なことを見逃している……そんな気がしていた。
かといって、部屋から出て屋敷を動き回るのも、装備を没収されているこの状況ではあまり得策ではないだろう。俺は仕方なくベッドに横になっていた。
天井を見上げながら、しばらくの間……といっても、数時間経っていたと思う。既に真夜中の出来事であった。
コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。
「え……だ、誰だ?」
こんな時間に部屋を訪れてくるのは……ヤトか? しかし、ヤトだったら、部屋の鍵も持っているだろうし、わざわざノックをする意味がない。
俺はそう思いながら扉に近付いていく。
「あ、アスト君……開けて……」
「……ミラ?」
ミラの声だった。俺は慌てて扉を開ける。すると、扉の先には……食堂で出会った時と同様に、胸元の開いたドレスを着たミラが立っていた。
「あ、あはは……良かった……起きてたんだね……」
「ミラ……どうしたんですか? それに……すごい汗ですよ?」
まるでどこかで激しい運動でもしてきたかのようにミラは額や胸元に大量の汗をかいていた。
「う、うん……とりあえず、部屋に入れて……お願い」
言葉の調子が明らかにおかしい……俺は何も言わずにミラを部屋に通した。
ミラはよろよろとふらつきながらもなんとか、部屋の片隅にあった椅子に腰掛ける。
「ミラ……かなり調子が悪そうですが……」
「わ、悪いってもんじゃないよ……最悪さ……ヤト姉様に……まんまと嵌められたからね……あはは……」
ミラはなぜか俺の顔を見ないようにしながら話を続ける。
「嵌められた? ミラがですか?」
俺がそう言うとミラは首を横にふる。
「……ウチと……アスト君が、だよ……」
俺が状況を理解できていないと、ミラは先を続ける。
「……姉様は……最初からウチらのことを見てたんだ……この町に入ったときからね……それで、ウチとアスト君が仲間だってこともなんとなく理解したみたいで……姉様はすぐに行動を起こしたわけさ……だから、屋敷の玄関に至るまでの罠が全部変わってたんだ……」
「え……でも罠が変更されたのは、ヤトが本気で怒っているからだ、って……」
「……違った。ヤト姉様は怒ってなかったよ……むしろ……ウチは感謝されちゃった……よくぞ、一族繁栄のための鍵を持って帰ってきたな、って……」
「一族繁栄のための鍵って……え? それは、つまり……俺のことですか?」
ミラは辛そうな顔をしたままで、小さく頷いた。
「……ヤト姉様は小さい頃からそういう教育を受け続けてきたからね。そういう自覚が強いんだ……だけど、あの性格だから、どこのパーティでもウチ以上に長く続いた試しがない……自分は一族繁栄に役立つことができない……だからこそ、その役目をウチやキリちゃんに担わせようって考えなんだよ……」
「そんな……でも、そんなのどうやって……」
「……簡単だよ。姉様は思いついたらすぐ行動するタイプだからね……今宵ここで、ウチとアスト君がそういう行為……つまり、一族繁栄のための行為に励めばいいってことさ」
「……はぁ!?」
半笑いするミラに対して、俺はとんでもなく素っ頓狂な声を上げて驚いてしまったのであった。
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