第110話 ダンジョンの如く
「さて……ここからが問題だね~」
ミラとキリが屋敷の前で止まってしまった。屋敷の門は固く閉ざされている。
一見何の変哲もない感じだが、これまでの経緯を踏まえると、どう考えてもこの屋敷にも何か仕掛けがあると見たほうが良い。
それに、このミラとキリの警戒の仕方……どう考えても尋常ではない。
「……姉様。とりあえず、試してみては?」
キリの提案に、ミラは小さく頷いたあとで周囲を見回す。そして、なぜか小さく微笑んだ。
「さすがヤト姉様……屋敷の前には石ころ置いてないねぇ」
そう言ってミラはそのまま懐から何かを取り出す。それは……ナイフのようだった。
「ミラ……それは……」
「まぁ、絶対必要なると思ったからねぇ……ちょっと、待ってね。あ、というか、門から離れて」
言われるままに俺とキリが離れると、ミラはナイフを構える。かなり構え方が様になっている辺り、やはりミラの前職は暗殺者であったのだろう。
そして、ミラはナイフを門に向かって放った。ナイフは門に当たってカーンと無機質な金属音を奏でた。
ナイフは何事もなかったかのように地面に落ちた。ミラとキリは顔を見合わせる。
「……はぁ~」
ミラが思いっきりため息を付いた。キリも明らかに落胆した感じを見せる。
「え……ど、どうしたんですか?」
「いや~、変わっちゃってるね~、完全に」
ミラが苦笑いしながら俺を見る。
「変わってるって……何が?」
「……全部です」
キリが悲しそうな顔で俺にそう言った。
「全部って……え?」
俺が理解できないでいると、ミラが地面からナイフを拾って俺の方に戻ってくる。
「この屋敷はダンジョンだよ」
「ダンジョン……ですか?」
「入口の門から家の細部に至るまで……あらゆる場所に罠が……人を暗殺するための罠が、ヤト姉様によって張り巡らされているんだけど……前は、この入口の門に罠があったんだ。触るだけで門が爆発するっていう罠がね」
「しかし……それが作動しなかった、ということですか?」
「作動しないんじゃない。そもそも……罠が変わったんだ。罠の場所も種類もヤト姉様がウチ達の知らない間に完全に一新した……おそらく、ウチとキリちゃんが知っている罠は今この屋敷の中に一つもない」
「え……それって……」
俺はその時になってようやく、今の状況が不味いことを俺は理解する。
「そう。この屋敷に入るってことはそれこそ、地図も持たずにダンジョンに入るようなもの……自分から魔物の胃袋の中に飛び込むようなものだね~」
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