第111話 帰還の誓い

「……それで、どうするんですか?」


 俺はミラに向かって聞いてしまう。ミラは少し考え込んだあとで俺の方を見る。


「……やめとこう」


 しかし、ミラが口にした言葉は……予想外のものだった。


「へ? やめるって……」


「この状況がまさにヤト姉様からの答えだよ。ヤト姉様はウチ達に帰ってきてほしいなんて思ってない、姉妹の関係なんてどうでもいい……だからこそ、罠を変更した。そういう意思表示なんだよ」


 ミラは特に悲しげな感じもなくそう言う。


「え……そ、それで……いいんですか?」


「良いも悪いもないんだよ。こんな状態でこの屋敷の中に突っ込んでいくなんて愚の骨頂……自殺行為だよ」


「……私は……嫌です」


 と、そう言ったのは……キリだった。


「……キリちゃん。それ、意味分かっていってるの?」


 ミラらしくない、少し低いトーンの声で、そう訊ねる。しかし、キリはそれに動揺することもなく、逆にミラを睨み返す。


「……ミラ姉様は、このままでいいのですか?」


 キリがそう言うとミラは何も言わなかった。黙ったままでなぜか、俺のことを見ている。


「えっと……ミラ。その……もしかして、俺のことを心配してくれてます?」


「心配というか……はっきり言うね。この屋敷に入ると生きて帰ってこられる確率のほうが低いからさ……ここでアスト君が死んじゃうと、勇者サマやヒーラーさんに合わせる顔がないんだよね」


 ミラは苦笑いしながらそう言う。それも失礼な話だが、俺は……ミラらしくないと思ってしまった。


 いや、ミラがここまで言うということは、本当にこの屋敷は危険なのだろう。そして、ミラは本気で俺がここで死んでしまったら、他のメンバーに申し訳ないと思っている……


「大丈夫ですよ。俺、ここでは死にませんから」


「……いや、そんなことは言えないね。さすがのアスト君でも無事では済まないよ」


「え……で、でも……」


「……だから、改めて聞くね。アスト君……ウチのために一緒に屋敷の中に入ってほしい。これはお願いだから、拒否してもらってもいい。どう?」


 そう言ってミラは頭を下げた。ミラのそんな行動が完全に予想外で俺は思わず呆然としてしまう。


「……アスト。その……私からもお願いします」


 と、キリも同様に俺に向かって頭を下げた。というか……二人に頭を下げられるとなんだか悪い事をしている気分である。


「……分かりました。俺は……自分の意志でミラとキリに同行します。でも……リアとメルに会うためにも必ず戻ってきます」


 俺がそう言うと、ミラもキリも安心したようだった。


「……よし! そうと決まれば、屋敷の中に向かおうか」


 そう言ってミラは屋敷の門の方に向かっていく。すでに門は安全と確認した……ミラは門をゆっくりと開ける。


 門が開くと、まるで巨大な魔物が口を大きく開けているように錯覚する……いやいや、ただの古びた屋敷に必要以上に怖がる必要はないだろう。


「……じゃあ、行くよ」


 ミラを先頭に俺たちは門を越えてそのまま屋敷の玄関へと向かっていく。そして、俺たち三人は全員屋敷の敷地内に入った……その時だった。


 バァン!と何かの力が働いたかのように、勢いよく門が閉まった。


「あ!」


 ミラが声をあげる。俺は思わずミラの方を見る。


「え……な、なんですか、今の……」


「あ、あはは……ごめん。ヤト姉様、想像以上に本気だったみたい――」


 何か一瞬光るものが見えたかと思うと、次の瞬間、なぜかミラがいきなり倒れた。と、背後にいたキリもなぜか倒れている。


「なっ……なんでこんな――」


 しかし、次の瞬間には首筋に微かに痛みを感じる。と、痛みを感じている間もなく、すぐさま俺も意識をそのまま失ってしまったのであった。

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