第106話 暗殺者の街へ
「……それにしても……まさか、馬車で移動するとは考えていませんでした」
俺は思わず大きく揺れる馬車の中でそう言ってしまった。
「しょうがないでしょ~。ウチらの故郷には転移魔法が使えないんだから! 一番近くの街を経由して行くしかないんだよ~」
ミラが少し不満そうな顔でそう言う。転移魔法が使えない街……やはり、そんな街は転生前にも聞いたことがなかったのでどうにも危険な街なのだろう……
「……というか、リアとメルは……どうしても連れてこられなかったのですか?」
馬車の中には俺、ミラ、そして……ミラの妹であるキリしか乗っていなかった。
「無理だよ~。それとも、アスト君は勇者サマとヒーラーさんが死んじゃっても良いの?」
すでにミラには何度も説明を受けた。暗殺者の街があまりにも危険に満ちていること、その街に、リアとメルが入ることは自殺行為に等しい、と……じゃあ、俺は大丈夫なのかと聞いたらミラは笑うだけだったが。
とにかく、リアとミラには説明をして、何度も頭を下げた。リアはラティアに外の世界を案内するから、少し休暇があっても良いと納得してくれたが……メルの方は完全に不満そうだった。
これは帰ったらなにかしらメルに対して埋め合わせをしなくてはいけないかもしれないな……
「……姉様の判断は正しいでしょうね。私達も自分を守ることで精一杯でしょうし」
俺の隣に座ったキリがボソリとつぶやくようにそう言う。そう言われてしまうと……俺も何も反論できなかった。
「その……暗殺者の街は歩いているだけでもそんなに危険なんですか?」
「暗殺者の街が危険というか……ウチらと一緒に暗殺者の街を歩くことが危険、かな?」
ミラは呑気にそう云うが……つまりは、街を捨てて出ていった姉妹に対して容赦はしない、ということなのだろう。
「……しかし、街を捨てた二人のお姉さんは……街にいるんですよね? 大丈夫なんですか?」
俺がそういうとミラとキリは目を丸くして俺を見る。それからなぜか二人は顔を見合わせて小さくため息をつく。
「……そうだよね。アスト君は、ヤト姉様のこと、知らないもんね」
「ヤト……あぁ、それが一番上のお姉さんの名前ですか」
「うん。まぁ、簡単に言うと、ヤト姉様は……強すぎるから。街の人も出だしができないんだよね~」
強すぎる……その言葉を聞いて俺はそのヤトがどれだけ強いのかを察知する。ミラは俺の強さを知っている。その俺の前で強すぎるということは……ヤトはつまりは、規格外、なのだろう。
「……アスト。一つ言っておきます」
と、なぜかキリが俺の方に顔を近付けてくる。
「え……な、なんですか?」
「……街に入ったら、誰も信じてはいけません。自分以外の他人のことは、誰も信用しないことです。いいですね?」
強い調子でそういうキリ。
「それは……ミラやキリのこともですか?」
俺がそう言うとキリは少し困ったように視線を反らす。
「え~? アスト君、ウチのことは信用してよ~?」
明らかに信用できない態度でそういうミラ。そんな態度をとられると俺も困ってしまうのだが……
と、その時、ちょうど馬車がゆっくりと止まったようだった。
「……場所が止まりました。行きましょう」
キリのその言葉に俺たちは場所を出る。いよいよ、暗殺者の街へと近付いているようなのであった。
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