第107話 私の故郷

「アンタ達、ホントにここでいいのかい?」


 馬車の運転士は明らかに怪訝そうな顔で俺たちに聞いてきた。


「大丈夫ですよ~。気にしないでね~」


 ミラが相変わらずの対応でそう言うと、運転士はそれでも納得できなそうな顔をしたままで馬車を走らせて去っていった。


「えっと……俺も不安なんですが……ホントに、ここでいいのですか?」


 俺は思わずミラとキリに聞いてしまう。しかし、ミラは相変わらずの笑顔のままだし、キリは無表情のままで反応がない。


 俺は今一度周囲を見回してみる。俺たちが馬車から降りた場所は……一面何もない荒野だった。


 街らしきものは……少し離れた場所にそれらしき建物があるが、あれは――


「じゃあ、行こうか」


 と、俺が考えているうちにもミラが歩きだしてしまった。俺もそれに付いて歩き始める。


 俺たちが今歩いている方向はどう考えても先程、俺が見つけた「街らしき建物」がある方向だった。


 しかし、俺にはどうにも今進んでいる方向が、俺達の目指している場所とは、到底思えないのである。


「あー……ミラ。少し聞いていいですか?」


 さすがに俺も我慢できなくなってミラに訊ねてしまった。


「ん? 何?」


「……もしかして……あれが『暗殺者の街』なんですか?」


 俺はそう言って建物がある方向を指差す。すると、ミラはさも、当然だというような表情で俺のことを見る。


「うん。そうだけど……他に街なんてないでしょ?」


「え、えぇ……それは……そうなんですけど……」


 ミラの反応に俺は戸惑ってしまい、それ以上は聞けなかった。そして、どんどんと建物に近付いていくにつれて、俺の嫌な予感は段々と確信に変わっていく。


「ミラ……これ、本当に……街、ですか?」


 目の前に見えてきた街らしきものをまえに俺は思わずもう一度聞いてしまう。


 少し遠くから見ても、街に人の気配は感じられない。建物の中にも人影は見えず、街の通りにも誰もいないように見える。


 つまり……どう見ても俺にとっては廃墟にしか見えないのである。


「……アスト。言ったはずですよ。何も信じてはいけない、と」


 と、俺の横を歩いていたキリが小さくつぶやくように俺に話しかける。


 ……どういう意味だ? もしかして、俺はすでに……騙されているとでもいうのか?


「……街に入ると、住民総てがアナタを狙っていると考えて間違いありません。できる限りの注意を」


 そう言われて、俺は腕輪を左手で撫でながら、転生前に持っていた「危機察知」のスキルの能力を起動させる。


 その瞬間、俺の全身に衝撃が走る。思わず俺は目の前の廃墟のような街を今一度見てしまう。


「……殺意が……高すぎる……!」


 そして俺は思わずそう呟いてしまった。「危機察知」のスキルで感知できたのは……街全体からあふれる殺意だったからである。


「おや? ようやく、分かった。そうだよ~、あれが暗殺者の街。一見すれば誰も住んでいないように見えるのは、廃墟にカモフラージュしているから……実際には、住民総てが訪問者に対して殺意むき出しの最低な街……」


 そう言ってちょうど街の入口前までやってきたミラは、俺の方に振り返ってニッコリと微笑む。


「ようこそ、私の故郷へ♪」


 嬉しそうにそう言うミラを見て、俺はようやく目の前の廃墟が暗殺者の街だということを実感したのだった。

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