第102話 姉上と一緒

「それでは、姉上……ありがとうございました」


 城の入口までやってきた俺たち。リアは、見送りに来たラティアに対してそう言う。


「……あぁ。しかし……本当に大丈夫なのか?」


 ラティアは未だに心配のようだった。まぁ……それはそうだろう。


 リアの腰元には……吸魂の剣がある。あのレイリアの魂を封印した剣だ。リアは……それをこれからも持ち歩くと言ったのだ。


 ラティアはもちろん反対したが、リアの決意は硬かった。無論、俺たちパーティメンバーは、リアがそう決めたのならば、仮にそれでどんな不都合が起きようとも、受け入れる準備はできているので、反対はしなかった。


「えぇ。大丈夫です。決めましたから」


 リアがそう言ってもやはりラティアは不安そうだった。


「……そうか。お前がそこまで言うのなら……我はもう何も言わぬ」


 そういうラティアは……どこか悲しそうだった。というか、先程からずっとラティアは……寂しそうだったのだ。


 ……考えてみればラティアは俺たちが行ってしまうと、またしてもこの広い城の中に一人になってしまう……当然だが、それは孤独この上ないことである。


「では、姉上。今度こそ。これで。必ず私は強くなってまた姉上に会いに来ますので」


「あ、あぁ……楽しみにしているぞ」


 力なく微笑むラティア。何かいうべきかと思ったが……かといって、なんだか言い出しにくい。


 それにラティア自身の気持ちもどうなのだろう……ラティアはこの城から出たいのだろうか……?


 そして、俺たちは城の入口を離れていく。しばらく歩いたあとで、俺はリアに聞いてみることにした。


「あの……リア。実は――」


「勇者サマは、これでいいの?」


 と、俺が聞こうとするよりも前に、ミラが先にリアに訊ねる。


「え……何がだ? レイリアのことなら、もう皆にも確認をしたはずだが……」


「そのことじゃないって。お姉さんのこと」


 ミラはそう言って背後を振り返る。俺たちも同様に振り返った。


 と、未だに城の入口でこちらを見送っているラティアの姿がそこにあった。


「お姉さん……一人で残していいの?」


「え……? し、しかし……姉上を連れて行くのは……」


「連れて行くのは……嫌なの?」


「そ、そんなことはない! ないのだが……」


 そう言ってリアはラティアの方を見てから、俺の方を見る。


「……リアは、どうしたいんですか?」


「え? 私?」


「はい。ラテイアとはまた会えないままのほうがいいですか……それとも……」


 俺がそう言うとリアは少し考え込んだあとで、いきなり城の方に向かって走り出した。そして、城の入口にいたラティアと何か話したかと思うと、そのままのラティアの手を引いてこちらへ戻ってきた。


「ど……どういうつもりだ……我を……連れていくというのは……」


 当惑しているラティアは俺のことを不安そうに見る。


「えっと……単純に俺達としては……ラティアがあの城に一人きりでいるのはなんだか……嫌なんですよね」


 俺がそう言うと、メルもミラも同様に頷く。ラティアはそれでも目を丸くしたままで俺たちのことを見ている。


「……姉上。その……私も、そうです」


 リアが思い切った様子でそう言う。ラティアはしばらくじっとリアのことを見ていたが……フッと小さく微笑んだ。


「……わかった。ただ、我は冒険者ではないからな。あまりお前たちの役には立つかわからないぞ」


「ええ。大丈夫です。俺達は、ラティアに一緒に来てもらいたいだけですから」


 俺がそう言うと、ラティアのその白い頬が少し紅に染まったような気がした。


 こうして……俺たちのパーティの勇者は実家に戻り、自分自身が抱えるものに向き合う覚悟を得た。


 ラティアと並んで歩くリアの顔は、どことなく誇らしげに見えたのであった。

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