第100話 手段を選ばず

「……へ?」


 何が起きたのかまったくわからなかった。レイリアは喀血したまま、その場でピタリと止まっている。


 明らかに今、レイリアは勝利を確信していたはずだ。それなのに一体何が起こったのか?


「お、お主……い、一体何を……」


 レイリアは目だけで俺を睨んでいる。俺も完全に力を開放することを覚悟していたところだった。


 しかし……そうはならなかった。俺もそうであったし、おそらくレイリアも意味がわからなかっただろう。


「いやぁ~、間に合ったねぇ~」


 と、そこに声が聞こえてくる。俺は声のした方に顔を向ける。


「……ミラ」


 いつのまにかミラが姿を現していた。メルもリアも、そして、ラティアに関しては完全に腹の傷も治った状態で俺の前に姿をあらわす。


「ほんとに見ていて心配だったよ~。メルもリアも、お姉さんも今にも飛び出そうとするから止めるのに苦労したんだよ?」


「……当たり前だ。あんな状態のアストを見て、落ち着いていられるお前がおかしい」


 リアが少し怒った様子でそう言う。しかし、相変わらずミラはヘラヘラ笑っている。


「ミラ……レイリアはどうして……」


「だから、言ったでしょ。下準備をしてたって。まぁ、効くかどうかはわからなかったけど……結果的には効果があったみたいだね」


「効果……魔法でもかけたのですか?」


「魔法? 無理無理~! アンデッド系……しかも、最上位の吸血鬼に状態異常魔法なんて効くわけないじゃ~ん。いくらウチが一流でもそれは無理だよ~」


「じゃあ……レイリアは、一体……」


「だから、これ」


 そう言ってミラは懐から何かを取り出した。それは先程、ミラが作っていた薬草……を調合した緑色の液体が入った小瓶だった。


「それが……どうかしたのですか?」


「これね、ウチが暗殺者だったときによく使っていた毒。麻痺、毒、魔法無効……まぁ、諸々の状態異常を引き起こせるすごい毒なわけ」


 それを聞いて俺はようやくミラが何をしたのか段々と理解してきた。そして……ミラはそういうことをする人間だということも俺は思い出した。


「じゃあ……もしかして、それをレイリアに……」


「うん。さっきお腹に剣が刺さってた時も、身体は動いてたからね。だから、口から飲ませてみたわけ。あ。ちなみに普通は取り扱うウチ自身にとっても危険だから薄めて使ってたんだけど……これ、原液100%だから」


 そこまで聞いて俺は理解した。


「つまり……毒が効くまで……ミラは待っていた、と?」


「うん。まぁ、アスト君に教えてあげても良かったんだけど……レイリアに何か飲ませたこと、悟られたくなかったからさ~」


 苦笑いしながらそう言うミラ。流石に俺も呆れて物も言えなかった。


「……アスト。アンタ、いい加減コイツ、パーティから追い出したほうが良いと思うわよ」


 と、いつのまにか隣にいたメルが割と真剣な顔でそう言ってくる。俺も曖昧にそれに笑いながら対応する。


 しかし……俺は今一度レイリアの方を見る。


「ふ……ふざけるな……! わ、妾が……そんな……毒などで……!」


 明らかに弱っているレイリアを見て……ミラの実力だけは本物だということは理解した。


 兎にも角にも、普通のパーティなら卑怯とも思える手法であるが……俺たちは追放された者たちのパーティである。


「……でも、助かりました。ありがとう。ミラ」


 俺がそう言うとなぜかミラは意外そうな顔で目を丸くしている。それからニヤリと微笑んで俺を見る。


「こちらこそ。いつも余裕なアスト君の必死な姿を見せてくれて、ありがとう」


 そう言われてしまうと、俺は苦笑いすることしかできなかった。


「……やっぱり追い出したほうがいいわよ、コイツ」


 メルのその言葉に俺は同意とも否定ともとれない表情で返したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る