第99話 腕輪の声

 向かってきたレイリアの動きを俺は確かに目で追えていた。しかし……俺のすぐ直前でレイリアの姿が消えて失くなった。


「なっ……!?」


「こっちだ!」


 と、いつのまにかレイリアの声が背後から聞こえてきていた。俺は慌てて振り返るが間に合わず、剣の一撃を食らう。


「ぐっ……」


 しかし……浅い。明らかに今レイリアは俺に瀕死の一撃を放つ距離にまで近付いていた……だが、傷が浅すぎるのである。


「ほら! こっちだ!」


 と、今度は別の方向からレイリアの声が聞こえてくる。俺はそちらにもなんとか反応するが、今度は足の部分が切りつけられた。


「ぐあっ……!」


「ククク……やはりそうか。お主……妾の速さについてこられないだろう?」


 再び俺の前に姿を表すと、さも嬉しそうな顔でそう言うレイリア。


 ……実際、その通りだ。今の俺ではレイリアの動きを目で追うことすらできない。


 おそらく、もっと腕輪に祈らなければ、レイリアの速さを捉えることはできないだろう。


 だが……俺にはそれをしたくない理由があるのである。


「しかし……お主は言ったよな? まだまだお主の限界には上がある、と。あれはウソだったのか?」


「……いえ。本当ですよ。俺の限界はこんなものでありません」


「それなら……なぜ、限界まで力を出さない? 妾に殺されたいのか?」


 レイリアが少し不機嫌そうにそう言うと、俺はわざと口の端を釣り上げてレイリアに対して笑ってやる。


「……アンタ程度には、限界を出さなくても俺は勝てるってことですよ」


 俺がそう言うとレイリアはその紅い瞳をさらに輝かせて俺を睨む。


 ……あぁ、不味い。怒らせたな。


「……わかった。では、お主の望みに答えてしばらく遊んでやろう……そして、その上で殺してやる」


 そう言ってレイリアは再び姿を消す。次の瞬間には俺に対してまたしても剣の一撃が加えられる。


 吸魂の剣の効果なのか、食らっているダメージ以上に体力が奪われていく。メルやミラ、リア……ラティアの救援はない。


 それはそうだ。ここで出てきたらレイリアに殺される……おそらく、ラティアのこともミラが『ステルス』の魔法で隠しているのだろう。


 それなら……この窮地、俺がどうにかしなければならない。


「……はぁ、つまらないな」


 レイリアは攻撃をやめ、俺の前に立つ。俺は……いつのまにか地面に這いつくばっていた。


「お主……こんなものか。お主の中に感じたのは妾の勘違いか……妾も鈍ったか」


 俺は右腕の腕輪を見る。輝きは……弱くなっている。


 俺がこれ以上の力を得るには……腕輪に祈られなければならない。


「……もういい。お主には飽きた」


 レイリアがゆっくりと俺に近付いてくる。


 俺は……思ってしまった。


 に……俺が殺される? 俺の力はこんなものじゃない……


 俺はもっと強いヤツを倒してきた……しかも、俺一人で。仲間なんて顧みず、必要なかった。


(だったら、祈ればいいじゃないか)


 どこからともなく声が聞こえてくる。それは……腕輪からのものだということは俺も理解できた。


(俺は強いんだ。こんなヤツにここでやられるなんて、馬鹿らしいことだぞ)


 しかし……ここでこれ以上腕輪に祈ってしまっては……


(本当にいいのか? そもそも……なぜ、お前がここまで苦しんでいるのに仲間が助けない? お前……いや、はまた……仲間から追い出されたんじゃないのか?)


 違う、と自分に言い聞かせても腕輪の声を聞いてしまう。すでにレイリアは俺のすぐ前までやってきていた。


 レイリアが剣を振り上げる。今度は本当に俺を殺すつもりだ。


(祈れよ……俺)


 その刹那、俺は……腕輪に祈ってしまった。


 100%……転生前の力を引き出したいと。祈ろうとした……その瞬間だった。


「がはっ……!?」


 と、いきなり目の前で喀血したのは……レイリアなのであった。

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