第92話 最後の確認
「失礼する。準備はいいか?」
と、客間の扉を開けて、ラティアが入ってきた。
「あぁ、ラティア。えぇ、私達は大丈夫ですが……」
俺はそう言ってから、リアの方を見る。部屋の隅に立っていたリアは、鋭い顔つきでこちらを見ている。
「……えぇ、私も準備できています。姉上」
リアの様子を見てラティアはなぜか少し驚いたようだった。そして、それからなぜか小さく頷いた。
「……わかった。だが、行く前に最後に確認したいことがある……アスト。少し来てくれ」
「え? 俺、ですか?」
「あぁ、お前だけだ」
ラティアにそう言われ、仕方なく俺は皆を客間に置いてラティアに付いていく。ラティアは客間を出ると同時に扉をゆっくりと閉めた。
「……さて、お前に確認しておきたい。本当に大丈夫と思っているか?」
「え……と、言うと?」
俺がそう聞き返すと、ラティアは少し言いづらそうに顔をしかめた後で俺の方を今一度見る。
「……我はなるべくなら可愛い我が妹を危険に晒したくない。しかし、リアがあそこまで言った以上、協力せねばならないだろう。問題は……そのリアが大事にしているお前たちのことだ」
「俺達のこと、ですか?」
「リアと二人で話し合った時、リアは言った。これ以上皆に迷惑をかけたくない、だからレイリアとの決着をつけるのだ、と……リアが大事に思っているお前達を、危険な目に合わせるのは我も嫌なのだ」
……なるほど。言葉には出さないが、ラティアが言いたいことはなんとなく理解できた。
「……つまり、俺以外はレイリア討伐に参加しない方がいいということですか?」
俺がそう代弁してやると、ラティアは少し黙ったあとで小さく頷いた。
……なるほど。ラティアの気持ちはわかった。しかし……俺の返事は最初から決まっている。
「そうですね……確かに、ミラとメルがレイリアとの戦いに参加することはかなり危険なことかもしれません」
「だったら……我の魔法でこの客間に閉じ込めておくことも……」
「ですが……彼女たちが言ったんです。リアに協力したい、と」
俺がそう言うとラティアはそれ以上何も言えないようだった。しばらく黙っていたが、その後、呆れた様子で俺を見る。
「お前を見ても思ったのだが……どうやら、リアは少々不思議な人間たちとパーティを組んでしまったようだな」
「あはは……そうかもしれませんね……」
「……分かった。戦いが始まれば我がお前たちを守ってやる余裕はないかもしれん。覚悟してくれ」
「えぇ、わかっています」
俺の答えを聞くと、納得したのか、ラティアは大きく頷いた。
「……よし。では、お前たちとリア、そして、私で、レイリアを討伐するとしよう」
そう言ってラティアは今一度客間の扉を開こうとした。
「……似てますよね」
と、俺は思わず呟いてしまった。と、ラティアが不思議そうに俺のことを見る。
「似てる? 何がだ?」
「あ……いえ。アナタとリアが、ですね」
「我と……リアが? ……フッ。やはり、お前は不思議な人間だな」
と、満更でもなさそうな表情で、ラティアは扉を開ける。
「話は終わった……さぁ、『真なる吸血姫』の討伐に臨むとしようか!」
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