第93話 深淵へ
「……この階段を下っていくのですか?」
ラティアに案内されてやってきたのは城の最深部……へとつながっていそうな階段がある場所であった。
「あぁ。この階段の先に……レイリアの身体がある」
ラティアは重々しい表情でそう言う。俺は思わずリアの事を見てしまった。
リアもラティアと同じように階段を見つめている。俺でさえ、なんとなくこの階段の先に邪悪な存在がいることはなんとなく理解できた。
「……大丈夫ですか、リア?」
俺は思わず訊ねてしまった。と、リアは慌てて表情を取り繕うようにして笑ってみせる。
「あ……当たり前だ。ここまで来たんだ。今更引き返すことは……ない」
まるで自分に言い聞かすようにそう言うリア。いや……今の言葉はリアの覚悟だ。だとすれば、俺達もその覚悟を聞いて、先へ進まなければならない。
「……よし。では、行こうか」
ラティアを先頭にして俺達は階段を降り始めた。上層とは違い、階段は氷に覆われていなかった。しかし、それは同時にこの階段の先にはラティアの力が及んでいないことを示しているようで、なんとなく不安になった。
階段をしばらくすすむと、ようやく終りが見えた。随分と深くまで下がってきた気がする。
階段の先にはいくつか別れた通路があり、まるで迷路のように思えた。
「……変わりないな。かつてレイリアと戦った時と」
「その……ラティア。一つ聞きたいのですが……先程言っていた叔母上……つまり、リアのお母さんが残した武器とは?」
俺がそう言うとラティアはそのことかという顔で小さく頷いた。
「……その武器はレイリアの身体と同じ場所にあるのだ。部屋は確か……こちらだ」
ラティアを先頭に俺達は再度歩き出す。暗い地下道は不気味で、それこそ、魔物が出てきそうだった。
しかし、歩いてみてわかったが、驚くほどに生物の気配を感じない。まるで俺達はそれこそ、自分たちで死の危険に近付いていっているのではないかと感じる程の静けさなのであった。
「あ。そういえば」
と、そんなシリアスなムードの中でいきなりミラが声をあげる。
「アンタ……いきなり何なのよ」
呆れた調子でメルがミラに訊ねる。
「勇者サマのお姉さんさぁ、戦いを始める前に少し、その……レイリアの身体に下準備をしたいんだけど、いいかな?」
と、いまいちよくわからないミラの質問に、ラティアも少し困っているようだった。
「構わないが……レイリアの身体に魔法なんて効かないぞ?」
「うん。それはわかっているって。たださ~、試してみたいことがあるんだよねぇ~」
そう言ってなぜか嬉しそうに言うミラ。ラティアも不思議そうにミラの事を見ていた。
どうにも……一番怖いのはこういう場でもあんな態度をとれるミラなのかもしれない。
そして、ラティアについて地下道を歩くと、ついに、大きな扉の前にたどり着いた。
「……ここだ」
ラティアは短くそう言った。俺も自然と気が引き締まる。
リアは……かなり真剣な面持ちだった。
「……リア」
「え? あ、あぁ……すまない……大丈夫だ」
「……えぇ。大丈夫です。俺達がいます」
俺がそう言うとリアは少しだけ微笑んだ。それを見てラティアは扉に向かってなにか呪文のような言葉をつぶやく。
それと同時に、扉が勝手に開いた。ゆっくりと開いた扉の先には……広大な場所が広がっていた。
まるでそれは墓のようであり、同時に牢獄のようでもある、閑散とした場所であった。
そして、その中心部……少し盛り上がった祭壇のような場所には――
「あれが……レイリア?」
そこには……腹部に剣が突き立てられたままで横になっている一人の女性の姿があったのであった。
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