第66話 追い詰められて

「どうだった~、ウチの活躍~」


 ミラがなぜか期待するかのように俺の事を見てくる。


「え、えぇ……良かったのではないでしょうか……」


「えぇ~。なにそれぇ~。もっと褒めたりしてよぉ~」


 わざとらしく甘ったるい声を出すミラ。俺としては先程からぼんやりとした状態のメディのことが心配だった。


 と、その隣ではアッシュが今にも爆発しそうなくらいに苛ついていた。


「大丈夫だって~。ちょっとだけ、怖い思いをさせただけってぇ~。明日には夢くらいに思えてくるからさぁ」


「……まぁ、勝ってくれてよかったです」


「でしょう~? まぁ、アスト君も頑張ってくれ給え~」


 ミラは明らかに自分の仕事は終わったといわんばかりに、余裕でそう言った。こちらを見るメルが明らかにげんなりとした顔をしている。


「さて! 次は俺かな!」


 そんな話をしている時に、次に出てきたのは……戦士のライカだった。明らかにやる気が溢れており、戦闘意欲満々といった感じで俺のことを見てきている。


 あのライカという女性……明らかに不味い。見た目通りに……いや、それ以上に絶対に強い。


 かといって、俺が戦わないわけにはいかない……俺も覚悟を決めることにした。


「待て!」


 と、俺が戦いに出ようとしたその時……アッシュが思いつめたように叫んだ。そして、そのままライカの方に向かっていく。


「なんだ? アッシュ」


「……次は俺だ。お前は下がってろ」


 そう言ってアッシュが俺の前に立つ。しかし、その視線の先は俺に向けられてはいなかった。アッシュの視線の先は……リアだった。


「おい! そこのクズ勇者!」


 アッシュは大きな声でそう叫ぶ。反射的にリアがこちらを向く。


「……なんだ?」


「今から俺とお前が戦う。それでいいか? それで……その勝負でこの決闘の勝敗を付けようぜ」


 アッシュの提案は……かなり想定外のものだった。


 いや、アッシュの性格を知っている俺とすれば、追い詰められた時のアッシュはこういうことをする……呆れながらも俺は心のどこかでそう納得してしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る