第67話 パーティの中心

「……お前、本気でそう言っているのか?」


 リアが信じられないという顔でアッシュに訊ねる。しかし、アッシュは本気でそう言っているようだった。それはそうだ。アッシュはそういうヤツなのだから。


「あぁ、俺はマジだぜ。どうだ? 駄目なのか?」


「……当たり前だろう。そんな提案を受けてしまったら、今まで戦った者達の戦いが意味がなくなってしまう」


 リアは至極当たり前のことを言う。しかし、アッシュもそう言われることは予想していたようである。


「あぁ、そうだ。今までの戦いは無意味だったんだ。いいか? お前だって勇者なんだからわかるだろ? パーティの中心は……勇者なんだ。勇者が強いか弱いかでそのパーティの価値は決まるんだよ」


 アッシュはそう言って蔑んだような視線をリアに向ける。リアも自分が馬鹿にされているということはすでに察しているようであった。


「だから、俺とお前が一発勝負……それで全て決めようって言ってんだよ。それとも、何か? お前、もしかして……俺に負けるのが怖いわけ?」


 リアの眉間がピクリと反応するのがわかった。それをアッシュも察していたようで、まるで魚が釣り針にかかったときの釣り人のような笑顔を浮かべる。


「……怖いわけない。私は……お前のような人間には負けない」


「へぇ~! そうかい。だったら、それを照明してみろよ。俺の提案を受け入れて」


 リアは少し困ったような顔で俺に視線を向ける。俺としてもそんな視線を向けられても困ってしまう。


「……私はリアの思ったようにすべきと思います」


 俺自身もひどい返答だと思った。俺は……わかっている。アッシュとリアが戦えばどうなるか、を。


「……わかった。では、私の思ったとおりにする」


 そう言って、リアは今一度アッシュの方に向き直る。


「……いいだろう。私がお前を倒して、私のパーティは私含め、全てのメンバーがお前のパーティより強いことを証明してやる」


 リアがそう言うとアッシュは嬉しそうに微笑んだ。


「よし! そうと決まればさっさと始めようぜ」


 そう言って剣を抜くアッシュ。リアも同じように剣を抜いた。


 そして、勝負は開始されるのだが、結果は……火を見るよりも明らかなのであった。



「お~い? どうしたんだよ、さっきまでの勢いはよぉ~」



 アッシュは地面に倒れ込んでしまっているリアに、侮蔑の言葉を投げかける。


「くっ……く、くそぉ……」


「なんだ? 悔しいのかよぉ? いやぁ~、しかし、ここまで弱いとは思わなかったぜ~? さすが、アストのパーティのクソ雑魚勇者だなぁ~」


 そう言ってアッシュは俺のことを見る。俺は……何も言い返せなかった。


「ちょっと……どうするのよ?」


 と、メルが俺の隣にやってきて、俺に話しかける。


「……どうする、ですか」


「そうよ。このままじゃ、あの子……負けちゃうじゃない」


 確かに普通に考えればリアがアッシュに勝つなんて無理だ。アッシュだって明らかに自分が勝ったと確信している。


 しかし……なぜだろう。俺には……リアが負けるなんて信じられないのだ。根拠も理由もなかったが、俺にはそう思えてしまった。


 むしろ、俺には……何かとんでもないことが起きるのではないかという嫌な予感がしていたのだ。


「……もう少し様子を見ましょう」


「もう少しって……もう……」


 呆れ顔でそういうメルとは対照的に、ミラは何かを期待するかのようにリアの事を見ている。ミラはミラで何かを感じているのかもしれない。


「ま、負けるか……!」


 と、なんとかリアが今一度立ち上がった。アッシュはめんどくさそうな顔でリアを見る。


「おいおい……もうわかったろ? お前じゃ俺に勝てねぇんだよ」


「……まだ……私は負けていない……だから、そんなの分からないんだ!」


 そう言って、リアがアッシュに斬りかかろうとした時だった。アッシュの剣筋がリアの頬を掠める。


 リアは驚いて自分の頬を撫でる。赤い血がリアの手のひらについた。


「リア……」


 さすがにもう無理だ……俺がそう思った矢先だった。


「ふっ……ふふっ……!」


 なぜか、急にリアが笑いだしてしまった。しかも……いつもとどこか様子が違う。


「はぁ? お前、自分が勝てないからって何笑いだして――」


 アッシュがそう言い終わらない間の出来事だった。


 瞬間、アッシュの身体が横に動いたように思えた……いや、正確にはアッシュがそのまま横方向に思いっきりふっとばされたのだ。


「……え?」


 さすがに何が起こったのかわからなかったが、それと同時に……嫌な予感が的中したのではないかと俺は思ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る