第65話 良い勝負
ミラとメディはお互いに向き合ったままで対峙している。
「あれ? かかってこないの?」
ミラは明らかに挑発する感じでメディにそう言う。しかし、メディはまるで動かない。
すると、ミラは少しつまらなそうな感じでメディに対して杖を向けると『パライズ』の呪文を唱えた。
「うぐっ……」
それと同時にメディが地面に倒れ込む。どうやら呪文が効いてしまったようだった。
「なぁんだ……もう終わり?」
ミラがつまらなそうにそう言う。しかし、メディは動けないながらも諦めたような視線ではなかった。
「『クリア』!」
そしてメディは叫ぶようにしてその呪文を唱えた。すると、それまで完全に動けないようであったメディの身体が自由になり、今一度立ち上がった。
「おぉ、立ち上がった」
「……私もこれでもヒーラーです。そして、アナタが怪我をした時に治療したのも私です……その時にアナタがどんな魔法を使うかもアナタの体質で理解しました」
そして、今度はメディがミラに向かって杖を構える。
「その時、私……アナタの冒険者証も見たんです。アナタは……状態異常以外の魔法を使えない!」
メディはそう自信満々でそう言った。いつものおどおどしたメディとはまるで違う、自身に溢れた表情だった。
しかし……そう言われてもまるでミラは動じないようである。
「ふぅん。そうだね。で?」
「……私はあまり強くはありませんが、それなりの攻撃魔術を使うことができます。しかし、アナタはそれを防ぐ手立てがありません……そうですよね」
「う~ん……まぁ、そうなるね」
「だったら! 降参して下さい。私は状態異常をかけてられもすぐにそれを解除することができます。アナタに勝ち目は――」
「勝ち目はないって……言いたいの?」
と、メディの言葉が止まった。それと同時に、ミラの雰囲気も変わった。
雰囲気が変わったというか……明らかに怒っているのだ。見た目はいつものようにニコニコしているが、その笑顔の下には明確な……殺意が見えている。
「そ、そうです……アナタに勝ち目は……」
「……そうだねぇ。確かにどんな状態異常も、解除できる魔法を唱えられてしまえば、それまでだ。もっとも……解除できる魔法を唱えられれば、の話だけどね」
そう言ってミラは邪悪に微笑むと同時に、かすかに聞こえるくらい何かを呟いた。それは俺にはなにかの呪文に聞こえた。
そして、その次の瞬間には――
「い……いや……いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
と、いきなりメディが叫びだした。そして、そのまま耳を抑えるようにして地面にうずくまってしまう。
「や、やめてぇぇぇ……来ないでぇぇぇ!!!」
「……お、おい! 荷物持ち!」
さすがに異常だと思ったのか、アッシュが慌ててメディのもとへ駆け寄る。
「や、やめてぇぇぇ……う、うぅっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
「おい! 荷物持ち! しっかりしろ!」
叫んでいたかと思ったメディはまるで人形のような虚ろな目になって何かをつぶやき始めた。誰がどうみてもまずい状況だった。
「お、おい! テメェ、何しやがった!?」
アッシュがミラに詰め寄るが相変わらずヘラヘラした感じで答える。
「何、って……いやさぁ、状態異常なんて解除できるっていうから、ちょっと状態異常の魔法をかけてみただけだよ~。でも……ちょっと怖い幻覚が見えるようになる状態異常は、彼女には解除できないみたいだねぇ」
「ふざけんじゃねぇ! さっさと魔法を解除しろ! このままじゃ荷物持ちが……」
「じゃあ、言って」
と、ミラはアッシュに向けて鋭い視線を向ける。
「え……な、何を……」
「どう見ても負けでしょ、その子の。その子が言えないなら、君が認めて」
ミラにそう言われてアッシュは心底悔しそうな顔をしていたが、やがて諦めたように頭を下げる。
「……テメェの勝ちだよ」
アッシュの言葉をミラが聞くと同時に、それまで虚ろな目をしていたメディの瞳に光がもどった。
「お、おい! 荷物持ち、大丈夫か?」
「え……アッシュさん……私……ひっ!」
と、メディはミラの事を見ると、悲鳴をあげる。
「いやぁ……ありがとう。いい勝負だったよ」
ミラは笑顔でそう言った。それを見て俺は……やはりミラは敵に回してはいけないのだと理解したのでった。
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