第59話 意外な出会い
「じゃあ……キリさんはミラさんの妹だったんですか?」
俺とミラは、眠ってしまっているリアの見送りをメルに任せ、小柄な魔法使いキリと、大柄な女性と共に店に残っていた。
しかし、流石に俺も驚いてしまった。目の前の席で隣に座っているミラは、隣に座っている小柄な魔法使いキリの頭を撫でている。
「……私としては、姉様とアナタが同じパーティに所属している方が驚きです」
キリは恨めしそうに俺のことを見ている。この感じからすると、キリはミラのことをあまり良く思っていないようである。
キリは俺がアッシュのパーティにいた時に一緒だった魔法使いだ。キリに関してはホリアと違って俺に対して特別な冷徹というわけでもなく、むしろ、俺とあまり関わらないようにしている感じだった。
だからこそ、こんなところで会ってしまったからこそ、嫌な顔をしているのだろうが……
「それにしても……えっと……アナタは……」
「おう! さっき言っただろ? 俺はライカだ!」
そういって俺の隣にいる女性……短い輝く金髪に、女性というのに俺と同じくらいの身重……ライカは大げさに笑いながら俺の背中を叩いた。
「あ、あはは……えっと……ライカさん、その……ライカさんは戦士ですよね?」
「あぁ、そうだ。ちょうどアッシュのパーティで戦士が抜けたっていうんで、俺がそこに入ったってわけよ」
……なるほど。俺が抜けたあとに入ったのがこのライカというわけだ。
「そうですか……じゃあ、ライカさんもそれなりに強いんですね?」
「ん? まぁ、そうかもな……最近はあまり本気を出せていないけどな」
そう言って再度酒を口の中に流し込むライカ。ミラの提案通りなら、俺はこのラ
イカと戦うことになるのだろうが……
「えぇ!? ね、姉様と戦う!?」
と、そんな折に急にキリが素っ頓狂な声をあげる。ミラはニヤニヤしながらキリのことを見ている。
「そうだよ~。キリちゃん、お姉ちゃんにキリちゃんがどれだけ成長したか見せてね~」
「……あの、アスト。それって……アッシュがもう決めちゃったんですか?」
信じられないという顔でキリは俺のことを見る。
「あ、いや、そうなるかはわからないですけど、アッシュのパーティとウチのパーティが決闘するっていうのは本当ですね」
そう言うとキリの顔は途端にげんなりとしたものになる。どうやら、キリはミラの力を知っているようだった。
「……帰ります」
と、キリは急に立ち上がった。
「えぇ~? もうキリちゃん、帰っちゃうの~?」
「……はい。姉様、またどこかで」
そういってキリはそのまま足早に店を出ていってしまった。
「なんだ、アイツ。俺はまだ飲んでいるっていうのに。ったく、仕方ねぇな」
と、そのキリを見てからライカも立ち上がる。
「さっきの決闘って話、本当か?」
「え、えぇ……まぁ、誰が誰と戦うかはわかりませんが……」
「そんなもん、戦士は戦士と戦うに決まってんだろ。で、お前、戦士だよな?」
眼帯に隠れていない鋭い右目が俺のことを見ている。なんだか、俺のことを見通すような……そんな目だった。
「え、えぇ……一応、そうですけど」
「へぇ。そうか。それなら……ちょっとは面白そうだな」
なぜかライカはそう言ってニヤリと微笑むと、そのまま歩いていってしまう。
「じゃ、またな」
そう言ってライカも店を出ていってしまった。なんだか、不思議な感じの人物だった。
「あの人、ヤバいね」
と、ライカがいなくなってから、ミラが笑顔のままにそう言う。
「え……えぇ、そんな感じですね……」
「ま、どんなに強くても、アスト君には勝てないと思うけどねぇ」
「え……いや、そんな……っていうか、ミラさん、それ以上飲まない方がいいんじゃ……明日にも決闘があるかもしれないのに……」
「う~ん……ま、私はどうせやらないから」
と、酒を飲みながら上機嫌にミラはそう言った。
「え? やらないって……」
「やらないっていうか、やれないよね。だって、相手が逃げちゃったから」
「逃げちゃったって……もしかして、キリさんが?」
「うん。だってキリちゃんは知っているからね。私とやり合ったらどんなに目に合うかって」
ニヤニヤしながら怖いことをいうミラ。この時ほど、ミラと同じパーティで良かったと俺は感じてしまうのだった。
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