第60話 開戦

 そして、次の日。


「う、うぅ~……飲みすぎたぁ……」


 案の定、リアは最低のコンディションのようだった。


「リア……しっかりして下さい。今日にも決闘があるかもしれないのに……」


「わ、わかっている……大丈夫だぁ……」


 明らかに大丈夫じゃない様子でそう返事するリア。メルも呆れ顔でリアのことを見ている。


「まぁ、なんとかなるって~」


 ミラだけが相変わらずの調子でそう言っていた。とりあえず俺達はギルドの集会所に向かうことにした。おそらくそこではアッシュと会ってしまうだろうが、決闘のことをはっきりさせなければいけなかったからである。


 そして、実際にギルドに来てみると――


「どうなってんだ! なんなんだこれは!?」


 集会所に入るなり怒鳴り声が聞こえてきた。見るとその中央にいたのは……


「……アッシュ?」


 どうやらアッシュが騒いでいるようだった。


「ゆ、勇者様……落ち着いて下さい……」


 そんなアッシュを、ホリアが怯えた様子でなんとか宥めようとしている。


「あ、あの……どうしたんですか?」


 思わず俺はそんな状態のアッシュに話しかけてしまった。すると、それと同時にアッシュは俺の胸ぐらを掴んでくる。


「て、テメェか! テメェのせいだろ!」


「ま、待って下さい、アッシュ……なんのことですか?」


「しらばっくれるんじゃねぇ! これを見ろ!」


 そう言ってアッシュは俺に何かの紙切れを見せる。俺は紙切れの文字に目を走らせる。


「『今までお世話になりました キリ』……これは……」


「俺のパーティの魔法使いが今日朝起きたらいなくなっていやがったんだよ! これはどういうことだって言ってんだ!」


 アッシュは完全に怒りで我を忘れているようである。俺は思わずミラのことを見る。


 ミラはいたずらっぽく小さく舌を出す。どうやら、キリは本当に逃げてしまったらしい……


「待て。変な言いがかりはやめろ」


 と、先程まで二日酔い状態だったリアが、凛とした表情でアッシュにそう言い放つ。


「な、なんだテメェ……!」


「アストは何もしていない。お前の魔法使いがいなくなったとしたら、それは……お前のせいだ」


「なっ……ふっ……ハッハッハ! わかったいいぜ! そこまで言うならよぉ! 今すぐ決闘だ!」


 アッシュは完全にキレてしまっているようだった。なんとなくこうなってしまうのではないかと思っていたが……どうやら、覚悟を決めなければいけないようであった。

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