第58話 姉様

「……で、どうするのよ」


 目の前で相変わらず滅茶苦茶気持ちよさそうに眠っているリアを俺は見ている。隣からメルが苛ついた様子で聞いてくる。


「どうするも何も、あのパーティの人たちを完膚無きまでに叩きのめす……それだけだよねぇ~?」


 ミラは少し酔っているのか上機嫌でそう言う。俺は……ため息をつくしかそれに答えられなかった。


「……っていうか、アイツら、どれくらいの強さなの? 元パーティにいたアンタなら知ってるでしょ?」


「……アッシュのレベルは60。ホリアは……52くらいでしたか。あと今日はいなかったメンバーは魔法使いなんですが、レベルは……確か同じくらいです」


 それを聞いて、メルは大きくため息を付いた。俺も同じ気持ちだった。


「へぇ~、それは面白いねぇ。どこまで私の魔法に耐えられるかなぁ?」


「……アンタは少し黙ってなさい」


 ミラの言葉にさすがにメルは少し怒っているようだった。ミラはまったく反省していないようだったが、静かになった。


「つまり……戦士とヒーラーと魔法使いに関しては……私達とは勝負にならないってことね」


「え……いやいや、俺はレベル20ですよ? アッシュのあの言い方だと新しい戦士が加入しているでしょうけど……俺よりはレベル高いと思いますが――」


「はいはい。その腕輪がなければ、の話ね」


 メルは呆れ顔で俺の右腕を腕輪を指先で突っつく。そう言われてしまうと、俺も何も言えなくなってしまうのだが。


「……でも、勇者サマは……ちょっと勝てないかもねぇ」


 ミラが少し悲しそうに寝ているリアのことを見る。


 確かに……アッシュはあれでも一応それなりに強い勇者だ。俺がパーティにいた頃は、それなりに名を上げてきた勇者として注目されていたくらいだし……


「そうねぇ……どうするかなぁ……」


 メルも俺と同じように困惑しているようだった。


「そんなの、簡単だよ~。それぞれ個別に決闘すればいいんじゃない?」


 個別に……つまり、戦士は戦士と、魔法使いは魔法使いと、ヒーラーはヒーラーと……そして、勇者は勇者と戦えということか……


 確かにそれならば、リア以外は俺達のパーティが圧勝することにはなるだろうが――


「おい! 酒が全然足りねぇぞ!」


 俺が考えようとしている時に、隣の席から大きな声が聞こえてきた。俺達は思わず隣の席を見てしまう。


「……あれ?」


 と、一番最初に反応したのはミラだった。立ち上がった隣の席に近づいていく。


 隣の席には長身の女性……露出度の高い格好から戦士のように見える。左目の部分には黒い眼帯をしていて、まるで雷のようにまばゆい色の金髪をしている。


 そして、その向かいには、その女性の半分の身重くらいの小柄な魔法使いの装備をした女性客が座っていた。


「……ライカさん。他の人に迷惑ですよ」


 小さな魔法使いが女戦士をなだめようとしているが、女先生は完全に酔っ払っているようで笑い続けている。


 というか、今の声、どこかで聞いたことがあるような……


「もしかして……キリちゃん?」


 そして、ミラが話しかけたのは……小さな魔法使いの方だった。


 小さな魔法使いは目を丸くしてミラの事を見ている。そして、次の瞬間には怯えた様子でミラの事を見た。


「み……ミラ姉様……」


 小柄な魔法使いは……まるで、化け物にでも会ったかのように怯えた様子でミラを見ていたのだった。

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