第54話 氷よりも冷徹な
「あ、あぁ……」
その光景を見て、俺は情けなく声を出すことしかできなかった。先程まで威勢よく啖呵を切っていたリアも唖然としてメルのことを見ている。
「……テメェ、今何したかわかってんのか?」
アッシュが明らかな怒りを瞳に宿したままでメルのことを見る。
「あまりにもギャーギャーうるさいものだから、その元凶を閉じさせようと思っただけだけど?」
メルもまるで折れないつもりのようだった。
いや、こちらとしてはメルのことは頼もしいとは思うのだが、俺が知っているアッシュの性格からしてこのままでは明らかに不味いことに――
「何をしているのです!?」
と、今度は別方向から素っ頓狂な声が聞こえてきた。俺達は思わずそちらに視線を向けてしまう。
「あ、アナタ! 今私の勇者様の頬を叩いたんですか!?」
やってきたのは……シスターっぽい修道服を着た女性だった。装備からして彼女がメルと同様にヒーラーであることはわかった。
「ホリア……大丈夫だ。心配すんなって」
と、アッシュはそのヒーラーらしき女性……ホリアに急に優しい笑顔でそう言う。
「勇者様……本当ですか? 本当にお怪我はありませんか?」
とても心配そうな顔でそう言うホリア。
「もちろん。俺がこんなことで怪我なんてするわけないだろう?」
「そ……そうですよね! さすが勇者様です!」
……俺にとっては何度も見慣れた光景である。前のパーティでは何度も見たことのある光景だ。
彼女の名前はホリア。俺が前にいたパーティ……つまり、アッシュのパーティのヒーラーだ。
そして――
「……で、どうしてここにゴミがいるんですか?」
アッシュに向けた羨望の眼差しとは対照的に、侮蔑的な目を俺に向けてくる。
そして……彼女は俺のことをゴミ扱いする冷徹なヒーラーである。
「あ、あの……探している人って……やっぱりアストさんだったんですか?」
と、そこへ今度は非常におどおどした調子の声が聞こえてきた。
「あ、あれ? メディさん?」
と、そこへやってきたのは……ギルド専属ヒーラーのメディだった。
「ええ、そうです。よくやりましたね。荷物持ち」
ホリアは完全に馬鹿にした調子でメディにそう言う。
荷持持ち……? もしかして――
「え……メディさん……もしかして――」
「あぁ、コイツはウチの今の荷物持ちだ」
俺が話を聞こうとする前に、アッシュが先に答えを言った。それを聞いて、メディは申し訳無さそうに深く頭を下げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます