第51話 伝説の勇者

 メルのかつての仲間たちを倒してから、数日が経った。


 さすがにレベルがあがったので、俺もリアも違う場所でレベル上げをしていた。街から少し離れた場所……廃村になった場所には、ゴブリンやスライムよりもう少し強いモンスター……ワイルドウルフやリトルリザードなんかが出現する。


 相変わらずリアは怪我をしやすかったが、やはり怪我をしてもすぐに治ってしまった。たまにメルが付いてきてくれるので、そもそも、あまり心配する必要もなかったのだが。


 もっとも、ミラの方は……久しくその姿を見ていなかったのだが。


「……今日はこれくらいですかね?」


 一通りモンスターを倒した後で、俺はリアとメルに向かって訊ねる。


「そうだな、しかし、我々もそれなりに強くなってきたな!」


 リアは嬉しそうにそう言う。実際、リアに見せてもらった冒険者証を見ると、リアのレベルはすでに40レベルになっていた。


 最初のことを考えるとかなり成長している。もっとも、今の俺もレベル35になってきたので、中級レベルのクエストならば俺達でもクリアできるだろう。


「あんまり調子に乗らない方がいいわよ。そこらへんのレベルの時によく死んじゃう冒険者、多いんだから」


 メルが釘を刺す用に、リアにそう言う。リアは苦々しい顔でメルのことを見た。


「……別に、調子に乗っているわけではない。ただ、私もようやくパーティで活躍できるまでのレベルになったな、と思っただけだ」


「まぁ、そうね……でも、この世界にはもっとレベルが高い冒険者もいるから……そもそも、私の方が倍近くレベル高いし」


 メルがそう言うとリアは悔しそうに頬を膨らませる。メルはその様子を見て少し楽しそうに笑っていた。


「あ……とりあえず、今日も終わったんで、街に戻りましょうか?」


「……そうだな。別にいいさ。もっと強くなればいいんだからな」


 俺にとっては今の状況がもっとも良かった。厳しい戦いがあるわけでもなく、かといって毎日が退屈なわけではない。俺としてはこんな日々がずっと続いてほしかった。


「そして! いつかは私も、魔王を倒したという伝説の勇者エミスのようにどんなモンスターでも一撃で倒せるレベルになるのだからな!」


 リアは嬉しそうにそう云うが、俺は素直にそれに同意できなかった。


 勇者エミス……かつてこの世界を支配していた先代の魔王を倒した勇者のことだ。

 パーティを組まずに一人で先代の魔王を倒したという。


 もっとも、魔王を倒した直後、ヤツはどこかに消えてしまい、それから少し経って新しい魔王……現在、多くの冒険者が打倒を目指している魔王が出現し、モンスターが出るようになったのだ。


 俺にとっては……あまり聞きたくない名前だ。


「アスト」


 と、俺が考え込んでいると、メルの声が聞こえる。


「え? あ、あぁ……すいません、行きましょう」


 メルの少し不審そうな視線を感じながらも俺達は街に戻っていったのだった。

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