第50話 心のどこかで
酒場を出て、リアを背負った俺と、メルはとりあえず、リアを家まで送っていくことにした。
先程、俺は結局ミラとメルにすべてを打ち明けることはできなかった。しかし、自身の右腕に装備されている腕輪の話はしてしまった。
正直、腕輪の話も俺はしたくなかった……しかし、あの状況では腕輪の話をするしかなかったわけで……
「ねぇ」
と、俺がそんなことを考えていると、メルが俺に話しかけてきた。
「え? な、なんでしょうか?」
「アンタ、さっきの話って……ホントなの?」
メルが怪訝そうな顔で俺に聞いてくる。
いや……言われてみれば確かにあまりにも突拍子のない話だ。俺が伝説のアイテムを装備していて、それが転生の腕輪であるということ……
「……メルさんはどう思います?」
「え? 私は……まぁ、ウソじゃないと思う。アンタ、ウソつけなさそうなタイプだし」
「あはは……そうですよね。だから、あの話は本当です」
「へぇ……じゃあ、アンタはつまり……『転生』したってこと?」
そう聞かれて黙ってしまう。
そのとおり。俺は転生を経験している。つまり、俺は……以前はまったく別の人間だったということだ。
その時の記憶や能力は全て右腕の腕輪に封じ込められているというわけである。
「……ええ。そうですね」
「そう……なんだ。じゃあ、アンタは転生する前は今みたいな感じじゃなかったってこと?」
「まぁ……そう言えますね。少なくとも、昔はこんな感じでは喋っていませんでした……もっと、嫌なヤツだったと思います」
「嫌なヤツ?」
メルがそう聞き返すが、俺はそれ以上は言わない。
俺が転生した理由は、前の自分と決別したかったから……そして、俺はそれに成功した。
右腕に残った能力や記憶はいわば副産物のようなものなのだ。
「……気味が悪いですかね?」
思わず俺はメルに訊ねてしまった。
「え? 何が?」
「いや……なんというか……俺は以前は別の人間だったわけで、その時の記憶もあるわけです。そんな人間が、今は別の人間として存在しようとしているなんて……」
思わず自身の気持ちが出てしまった。俺は心のどこかでそう思っている。そして、俺はそれを誰かに聞きたくはなかったのである。
「別に。そんなこと思わないけど」
素っ気ない態度だったが、メルは俺にそう言ってくれた。俺は思わずメルのことを見てしまう。
と、メルは少し恥ずかしそうに微笑んでいた。
「アンタは、私がアンタを生き返らせても、私のこと、化け物呼ばわりしなかった……あのネクロマンサーとは違うんだって言ってくれた。私にとってはアンタがそういう人間だってことがわかっただけで充分」
「……メルさん」
「……と、とにかく! 私は別に気にしないから。むしろ、アンタが実は滅茶苦茶強いっていうなら、私としては安心だしね」
……俺は少し安心した。メルになら……もしかしたら俺がまだ隠していることを話してもいいのかもしれない。
でも……俺にはその勇気がなかった。その勇気を獲得するにはまだもう少し時間が必要……
「ほら! さっさと酔っぱらい勇者を家に送って、またウチで飲み直すわよ」
「え……まだ飲むんですか……?」
「当たり前でしょ。ほら、早くしなさい」
不安は残っていたが、俺は心のどこかで、もしかすると、この仲間たちとなら上手くやっていけるのではと思ってしまったのであった。
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